「ずっと好きだったんスよ」

休日に同級生のしかもモデルさんの黄瀬くんに呼び出されたと思ったらそんなことを言われてしまって私たちの接点って確か高校からしかなかったですよねいや確かに私は黄瀬涼太のファンだったけど同級生になってしまえばそんな憧れも消え失せるもので友達としてそれなりの関係を築いていた、のに。
待て嬉しいけど素直に喜べない何故なら学園一番のモテ男と付き合った私への僻みは絶対に酷いはずだ。そしてそういうこともわかってるだろうけど気にしない系男子が黄瀬くんだ。どうしようかふっても絶対に僻み全開女子が絡んでくる。

『あの、黄瀬くんと私は釣り合わないと思うんだけど』

やったこれだ!私の謙虚さ万歳と手が上がりかけた。

「そんなことないっスよ!俺、まいっちのことちゃんと知ってるから」

な、ナンダッテー。思わず変な顔になってしまうくらい衝撃的だ。黄瀬くんは私の何を知っていると言うんだまったく。

「あれは一年前っス。電車に乗ってるときに、女の子が痴漢にあってたんス」
『……』
「みんな見て見ぬふりして黙ってたんスけど、女の子が一人駆け寄って痴漢を撃退したんスよ。それがまいっちっス」
『……』

全く覚えがないですごめんなさい人違いじゃないですかね?と言う前に黄瀬くんが先に人違いじゃないっスからね?と釘を刺した。でも本当に覚えがないんだけどアルツハイマーですかね。

「それから毎日探すようになったんスけど、高校が一緒になったときはスゲー喜んだんスよ?」
『…うーん』

ちょっと性格に難有りなことがわかったんですがどうしましょう。いい人だってことは今まで話してきてわかっているんだけど。新手の詐欺にしか聞こえないうまい話が胡散臭いんですごめんなさい。やっぱり私にはそんな魅力溢れる人みたいな行動出来ないと思うな。

『ごめんなさい、やっぱり人違いな気がする』
「……」
『私はそんなこと、出来る人じゃないから』

とても傷ついた顔をした人をこれ以上見れなくて手短にじゃ、と言って鞄を引っ付かんだ。名前を呼ばれたけど気付かない振りをして、追ってきたらどう対応すればいいのかわからないから小走りで駆けた。結局黄瀬くんは来なかったけど。

でも何の因果関係なのか、本当に悔しい。電車に乗って壁際に押しやられて死角になるだろう場所まで流され、帰宅ラッシュの今、自分より身長の高いおじさんが周りに沢山居るため私が居ることも誰も気付かないんじゃないかというこの状況で痴漢に遭うなんて。
スカートの中に手を入れる度胸がないのか痴漢はずっと内股を撫でてる。気持ちの悪い撫で方で鳥肌が立ってきたのが自分でもわかった。心なしか腰辺りに硬いものも当たっている気がしてそれは身体を動かして離れる。人を押し退けて移動したいのにサラリーマンたちが邪魔で思うように動けない。もう電車通学止めたい。
そう思ったときに人と人の隙間から一際背の高い人が押し入ってきた。

「…大丈夫っスか?」
『え、黄瀬くん…』

もう痴漢の手は私を触っては居なかった。黄瀬くんは隠していたつもりのようだが、後ろからおじさんの呻き声が聞こえたから多分黄瀬くんが追い払ってくれたんだろう。しかも、私を気遣ってなのか穏便に。

『ねえ、黄瀬くん前にも助けてくれなかった?』
「…うーん」
『前にもこういうこと、あったんだ。痴漢が駅に着いた訳でもないのにどこかに行ったの』
「……」
『確か、やけに身長の高いサングラスかけた男の人に、もう大丈夫っスよって言われたの』「あ、あはは」
『黄瀬くんって嘘つきなんだね』

大方思い出してもらおうと嘘ついたんだろうけどね、質が悪いよ。

「すんませんっス」
『うん、お詫びにさっき言ったこと帳消しにさせて』
「…?」
『黄瀬くん付き合って』

驚いた顔をしているけれどこれって結構必然的だと思う。二回も見つけにくい電車の中で痴漢に遭ってる私を助けてくれるなんてそんな偶然なかなかない。

「俺、フラれたことないんスけど、まいっちが初めてならいいっスね。最初で最後っスよあんな体験」
『感想は?』
「もう一生味わいたくないっス」

ぎゅうううと引っ付いてくる犬みたいな黄瀬くんが泣かないように、私はもう黄瀬くんに惚れるしかないのかも知れない。


アンハッピーブレイク

END



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