片想いなんて結構してきたし実らなかったものもあったしあっさりフラれたのもあったしとにかく私は経験豊富なのだけれど、それ以外は全く経験がないのだ。

だから、付き合ってもないのに抱き締められたり、付き合ってもないのにキスされたりは困る。非常に困るのだ。

「真っ赤。初めてじゃないんでしょ?」

そうやってからかわれるのも困る。対応が出来ない。

「ね、まいちん。俺結構ね」

それ以上言われても困る。

「まいちんに本気なんだ」

私は断り方を知らない。


アンハッピーブレイク

困る。と一言言って教室に戻り、とりあえずもう帰るしかない時刻だったからその日は帰った。紫原くんとはよく話すしお菓子交換したりいろいろ構ってもらって助けてもらって仲は良かったんだ。良くフラれたとか言って泣く私をお菓子で慰めてくれたり、気を遣わなくて良い性格だから一緒に居て楽だった。
何で気づかなかったんだろうか。人の感情には敏感だったハズなのに。友達が私のことに飽きてきたという感情も全くこぼすことなく汲み取って離れたりしていたのに。まさか紫原くんが私に惚れていたなんて、ビックリだ。だって、確かにそういえば、なんて思い出が一個もない。

しかしどうしようか。私は告白は数をこなしてきたが告白されることは初めてだ。断り方なんて知らないし断るなんて出来ない。あ、でも困るって一言であきらめてくれたかも知れない。それなら良かったかも。ああでもあんな断り方酷すぎる。私だったら一日泣きはらすぐらいだ。

うんうんと唸りながら道を歩いていると、道に大きな大きな影が伸びてきて、それにすっぽり包まれてしまった。お腹辺りに回された腕がきゅう、と私を掴む。こんなに大きな人は紫原くんしか知らない。


『……』
「困るってお断りってこと?」
『うーん』
「どうなの?」
『難しい』
「まいちんってそゆとこ良くわかんない」
『じゃあ嫌ってくれる?』
「やだ」

やだって子供だな。って思ったらぎゅううって腕が力を増してエスパーですかごめんなさいとか叫びそうになったけど声が出なかった。紫原くんはお母さんに甘えるみたいにぐりぐり頭を押し付けてくる。

「……」
『紫原くん』
「なに?」
『私のどこが好き?』
「ん〜…わかんない」
『そっかそっか』

思わず笑ってしまったけれどいつもみたいに不機嫌にならない辺り真剣なことを知る。肩に乗った頭に手を乗せるとさらさらな髪が私の頬に当たった。

『私も紫原くんの良いとこ、あんまり知らないし、好きなところもまだ見付けてない』
「ん、」
『それでもいいなら付き合おっか』
「うん」

紫原くんの目がお菓子を貰ったときみたいに輝いた。単純だなぁって思いながら、私も相手の気持ちを考えて付き合うなんて言っちゃう辺り恋に不純だ。

それでも今のところ別れる気がしないのが不思議。


END



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