大切な人が見つかれば良いと思った。それ以上でもそれ以下でもないのかもしれない。

アンハッピーブレイク

大好きだと思えるような人間が見つからない。きっとバスケだけで今は生きていけるんだと思う。だからずっと、アメリカにいる頃から一緒に居て、育ってきて、熱中するもののないアイツには大切な人が見つかれば良いと思った。

そうは思うけどやっぱり欲張りなのか俺はアイツと一緒にいる時間が減るのが嫌だ。矛盾してるのかも知れないがそれでも嫌なものは嫌だからしかたない。そういうことは当の本人が決めることだろうが、アイツも同じ考えだといいな。

『大我、どうした?』
「あ?何でもねーよ」
『嘘はバレるぞ。つまらないことを考えていただろう?』
「…まあ、お前からしたらつまんねーことだろうよ」

コイツは俺の幼馴染みでも全然俺には似てない。成績も優秀、英語も俺とは違って読み書きどっちも完璧だ。スタイルも申し分ない上に少し男前な性格は頼りがいがある。人望もあるし、そんなんだからアメリカではしょっちゅうナンパされてたな。言い寄ってくる男なんかに良い奴が居るのかどうかはわからないが、俺の記憶の中では全部断っていた。男とかに興味がないのかもしれない。むしろ性別を完全無視している性格なんだ、恋愛なんて一つも頭に無いのか。

『で、どんなことを考えていた?』
「あー…お前気になるやつとか居ねぇのか?」
『な、何で急に』

目を丸くしてから俯いたまい。ちらちらと見える耳が赤い。こういう話をしたことなんてないから照れてるのか、思い当たる相手が居るのか。ろ照れた顔なんてあまりしないまいが照れるなんて、と思うとまいも可愛いげがある。

「急にでもないんだけどよ」
『…じゃあ、何で』
「相手が居るなら幸せになれよ」
『おい、質問に答えろ』
「何となく、お前には熱中するもんなんてないからな。譲れねぇもんとかねえのかと思って」

俺の言葉を聞いて微妙な表情をしたまいを見下ろす。そのまま反応も無くてしばらく黙ったままにしていたらまいが吹っ切れたみたいに勢いよく見上げてくる。

『譲れないものはある』
「そ、そうか」
『大切なやつが居る』
「……なら安心だな」

喜ぶところのはずなのに全くキレイに笑えない。まいの顔が歪んで、じっと見てくる。嫌な汗がじっとり出てきた。

『大我、無理してる』
「無理ってなんだよ」
『なあ、大我、私はそんなお前が見たいんじゃないんだ』
「…俺だって、こんなお前は見たくないんだ」

こんな俺の知らないやつを考えて照れて、思い出して笑うまいなんか見たくない。
自分だけを見ていて欲しくて、腕の中に閉じ込めていたくてたまらない。こんな感情しかない俺なんて知らない。

「まいが笑う理由が俺だけだったら良いとか思ってる。どうかしてる」
『大我…』
「可笑しいんだ、最近」
『大我、ちゃんと言ってくれ』
「まいが好きだ」
『それなら、私も一緒に可笑しくなるよ』

にっこりといつもの凛とした笑顔ではなく緩んだ顔をしたまいは俺の胸に抱きついた。大切な存在というものが、必要不可欠なものになっていく。大好きだと思えるような人間が見つからないなんて、嘘だ。今こんなにも愛しく感じてる。


「まい、好きなやつ居るんじゃないのか?」
『お前だよ、大我』
「…お前ってこんなに可愛かったっけ?」『当然』

なんか今まで以上に頑張れる気がする。


END



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