バカにされてるんじゃないのかと時々思う。それでも反抗出来ないのが不思議で。きっと逆らうものが嫌いな僕が唯一従わせることの出来ない存在だ。

『赤ちゃーん』
「……」
『暇』
「その呼び方止めてくれって言ってるだろ、姉さん」
『赤ちゃんは赤ちゃんだよ。だって私赤ちゃんの頃から知ってるし』
「それは関係あるの?」
『あるある。だから気にしないで』

僕の姉さんは自由奔放。どうやっても掴めない。人に従う従わないではなく、人を流してしまう。しかも、自分の思い通りに、ではなく正しい方へと導いている。道徳的に考えて、僕の姉さんを越える人は居ないと思えるほど、姉さんはお人好しだ。

『ねえ、ちょっと散歩付き合ってくれないかな』
「何で僕が…」
『赤ちゃんとデートしたいから』
「……」
『ね、征十郎』
「今日一日名前で呼んでくれるなら、付き合っても良い」
『一日で良いんだね』

クスッと笑う顔に笑い返す。多分姉さんは知らない。あだ名なんてあまり付けてもらえる様な性格をしていない僕を、他の人と同じ様に扱う姉さんが好きなことを。しかも、僕を赤ん坊だと未だ思ってる辺りが愚かしくて良いんだ。


『準備出来た?征十郎』
「うん」
『じゃ、行こうか』

兄弟同士で二歳しか違わないのに、この歳になっても当たり前の様に手を差し伸べてくる。姉さんはいつまで僕を子供扱いするんだろう。握り返した手をわざわざ僕の手の大きさがわかるように撫でながら指と指の隙間に自分の指を滑らせて、恋人繋ぎにして僕を意識させようとしても、姉さんは僕を笑うように繋いだ手を持ち上げて恋人繋ぎ、と嬉しそうに笑うから、本当に敵わない。

『征十郎、どこまで歩きたい?』
「姉さんに付き合うよ」
『んー、じゃあ海まで?』
「さすがに遠いよ」
『…今度は海に行こっか』
「海行きたいの?」
『うん。キレイだから』

ゆったりとした時間が流れて、その中を姉さんと歩く時間が好きだ。乗馬とか、あんまり得意じゃない姉さんは僕と出かける時間が少ないから、姉さんと居れる時間が大切に思える。

『征十郎、私洛山高校に行こうと思うんだ』
「どうしたの、いきなり」

僕を見上げる姉さんの顔が少し真剣になる。それでも微笑んでる姉さんは悲しそうな顔に見えた。僕の手を握る手が力を強めて、離さないようにすがるみたいで、姉さんらしくないと思った。

『征十郎が寂しくないかなー、なんて』
「…気にしなくて大丈夫だよ」
『京都なんて、遠くてなかなか帰ってこれないから少し心配したの。征十郎は寂しがり屋だし、口には出さないから』
「寂しがり屋なんて、そんなこと言うの姉さんだけだよ。僕は大丈夫だ」
『そう…』

姉さんは寂しがり屋だし、口には出さないから分かりにくい。何をしたくて、何を言いたくて、どうして欲しいのか、僕が知りたいことを迷惑なことだと片付けて口を固く閉ざす。だんまりもいいとこだ。そろそろ本音を引きずり出してやろうか。

「まい」
『…征十郎、呼び捨てはいけないよ』
「寂しいのはまいの方だ」
『話を逸らさないで』
「逸らしてるのはまいだろう?話始めたのは僕だ」
『……』
「僕と離れたくないのはまいだ。違うか?」

弱々しい存在が立ち止まって俯く。もう一度訪ねても、顔は上げられない。情けない顔なんだろう、愛しい。

『不正解』
「…不正解だなんて、初めてだな。どの辺りが?」
『征十郎も寂しがり屋だから。ねえ、征十郎、寂しくないなんて嘘、ダメだよ』
「じゃあ、姉さんなんて大嘘吐きだ」


上を向いて一瞬見えた顔はやっぱり僕の姉さんだ。不敵な笑みってこういうことを言うんだ、ね。

『大嘘吐きなのは元々だからいいの。だから貴方の欲しがってる言葉もあげない』
「じゃあ僕から言ってあげようか?」
『いいの?初めてじゃない?敗北』
「まさか!だって…」

僕の敵わない姉さん。
それでも一つだけ出し抜いてみせるよ。
駆け引きなんて姉さんには不向きだ。


「愛した量が多い方が勝ちなんだよ」
『屁理屈がお上手』
「姉さん、愛してる」
『ありがとう』

抱き締めて腕に収まる存在なんてきっとちっぽけだけど僕はそんなちっぽけな姉さんが何より大事だよ。勝利よりもずっとね。


アンハッピーブレイク

END



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