木吉先輩は優しい。
先輩の彼女になれた私はとても幸せなやつだ。
登校するために乗るバスでは、木吉先輩が周りの人に押し潰されそうになる私を庇ってくれるし、飴をくれるし、調理実習で作ったお菓子なんかは全部食べてくれるし、失敗しても美味しいって褒めてくれるし、部活帰りで疲れているのに私を家まで送ってくれて、頭をぽんぽんって撫でてもらうだけで嬉しくて舞い上がりそうになる。

木吉先輩はとてもいい人だ。


そんな先輩にお菓子を全部食べてもらえたら幸せなんだろうけど、そうもいかない。やっぱり作ろうとしたら量が多くなって、家族だけじゃ処理出来ない量になってしまう時もある。そういう時は、友達の火神くんとか黒子くんに食べてもらう。黒子くんは一つでお腹がいっぱいになっちゃうけど、火神くんは甘ったるいと文句を言いながら、それなりの量をペロリと平らげてしまうので、毎回助かっている。

『火神くん黒子くん、また食べてくれないかな…?』
「またかよ」
「今度は何を作ったんですか?」
『えっと、カップケーキ』
「へえ、味は?」
『プレーンとチョコと抹茶かな』
「抹茶か、美味そう」「木吉先輩が喜びそうですね」

にこっと笑って言う黒子くんも、食べたそうにカップケーキの袋を見つめる火神くんも、私が木吉先輩に味を合わせていることは知っている。ついでに木吉先輩に渡す前に食べさせていることも。所謂毒味係のようなもので、いつも申し訳ない。

『早速食べてもらっても良いかな?昼休みには渡したいの』
「おお、良いぜ」
「いただきます」

袋を開けて、まず一番成功していてほしい抹茶味を渡す。手に持って、二人ともしばらく見つめてから一口頬張り、もくもくと食べる。
以前に砂糖と塩を間違えたりしたから、二人も食べるときは真剣だ。

「美味しいです」
「抹茶悪くねぇな」
『良かったー!プレーンもチョコも食べていいよ!』
「おう」

一つを食べ終わり、ごちそうさまでした、と言った黒子くんに対して、火神くんはまた袋から何個かカップケーキを取り出して食べる。今回は出来が良いのか甘ったるいとかそういう文句は全く出なかった。

「まい」
『あ、木吉先輩!どうしたんですか?』
「いや、ちょっと通りかかったから覗いたんだけど、あれは?」
『ああ、えっとですね、また今日もお菓子を作ってきたんです!カップケーキ』
「…火神たちにもやってるの?」
『余った分を、木吉先輩?』

手に木吉先輩の分のカップケーキが入っている紙袋を持って廊下まで行くと、木吉先輩は難しい顔をしていた。振り替えって火神くんたちに首を傾げてみても、火神くんたちの表情からは、あちゃー、と言うようなものしか読み取れなかった。

『先輩、どうかしました?具合悪い?』
「…まい、ちょっと来て」
『えっ』

問う時間さえも与えられず、木吉先輩に手を引かれて小走りに廊下を駆ける。木吉先輩は不機嫌で、毎日見せてくれる笑顔も今は引っ込んでいる。


連れてこられたのは図書館で、今日は図書館を担当する教師の方はお休みらしくて誰も居なかった。中まで入って手を離した先輩は不機嫌な顔をしている。

『…あ、の』
「火神たちに、先に食わしてるのか?」
『は、はい……』
「毎回?」
『大体は、』
「あんなにたくさん?」
『たくさん、出来ちゃう…から』
「……なあ、まい」

大きな腕がぎゅうっと私を抱き締めて、顔が首にすり寄ってくる。くすぐったいのと恥ずかしいので、私はもう何が何だかわからなくなってくる。木吉先輩が抱き締めて来るのはいつもだけど、首に顔を寄せたりなんかされたことないし、こんな甘えるみたいな行為事態、珍しい。

「火神たちより先に俺に食わせてよ」
『えっでも…味見……』
「俺は、不味くても美味くても嬉しいから、味見とか要らない。それよりまいのお菓子他のやつに取られる方が嫌だ」

ぎゅうぎゅうと圧迫されて、でも何だか嫌では無くて、木吉先輩が甘えてくるの、本音を言ってくれるのが嬉しくて笑ってしまう。

木吉先輩は優しい。でもその優しさが全て独占欲から来ていたら、と思うと、先輩が可愛くなる。

『木吉先輩、大好きです』
「…俺も」

そう言い合って目を瞑ると、独占欲にまみれたキスをされた。


exclusive

END



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