電車に乗ると向かい側から必ず彼が此方に向かって歩いてきて
そしてお互い違う座席に座る


知らないお向かいさん

その人の身長は、失礼だけど高いとは言えず、むしろ低い方で
そしていつも本を読んでいて
たまに目が合うと会釈される。(私が返す前に座っちゃうけど)

その人の制服は誠凛のもので、私と同じ学校だった。
多分登校する道も同じなんだけれど、不思議と道では会わない。というか姿を見かけない。学校でも見ないから学年が違うのかも知れない。

その人が読んでいる本は、分厚かったり薄かったりまちまちだけど、でもいつも本を読んでいる。
だから多分、部活は文化部かな…と思っていたんだけど、エナメルバッグにたくさん入れているから運動部かも知れない。
そうやって、毎日注目している向かい側からやって来る人と私には、何ら接点は無く、普通に時間は過ぎていった。


***


何で今日はこんなに人が多いんだろう。
毎朝早目の電車に乗っている意味がない。
席も右側は空いていなく、丁度左側の中間辺りが空いていたのでそっちに向かって手を伸ばす。

『「あ、」』

二つの声がキレイにハモったと思ったら、それはあの名前も知らない誠凛の学生だった。思ったより身長差があり、さらに影が薄いのか全く気づかなかった。

『す、すみませんどうぞ』
「いえ、こちらこそ。貴女が座ってください」
『え…そんな、悪いですから』
「……じゃあ、丁度二人分ですし、二人で座りましょうか」


意外な返事に戸惑っていたら、どうぞ、と手で促されて窓際の席に座らせてもらった。通路側の席に男の子が座って、鞄を床に下ろしている。
しばらく無言で電車に揺られる。話題が全くないし、面識もない人とはこんな感じだろうなとは思ったけれど、申し訳なくなる。居心地悪いなぁ。


「あの」
『え?』
「僕のこと、やっぱり知りませんか」
『……』

前にも会ったことあるのかとすごく焦る。毎朝向かい側から来てたことは知ってるけどそれ以上はなにも知らないですごめんなさい。

『こ、この電車に毎朝乗ってることぐらいしか』
「……」
『前に話したことありましたか…?』
「いえ、」
『?』
「僕、影が薄くて…だから私生活では大体気づかれないんですけど」

読んでいた本をパタンと閉じて男の子は笑う。可愛い笑顔だなあ。

「何だか、貴女とはよく目が合うと思ってました。見えていたんですね」
『…だって、向かい側から毎日歩いてくるから、気付きますよ』
「不思議ですね」

クスッと小さく笑うこの人を毎朝気になって見ていたことは内緒だけど。

「あ、ここですよ。木下さん」
『えっ私の名前…』
「同じクラスですよ」
『……ごめんなさい』
「普通それが当たり前なんです。一緒に行きましょう」
『あの、貴方の名前は?』

「黒子テツヤ、です。畏まらなくても、普通に喋っていいですよ」
『は、…うん』

今日は何だかとてもいい日。
きっと占いは一位だなぁ。


END



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