雨が降る時期が嫌いだった。
だから定期的にやって来る梅雨前線が憎たらしかった。
私は雨が嫌いだった。


雨が降ると何もかもが悲しげに見えて仕方がなかった。
お父さんもお母さんも雨の日には溜め息ばかり吐いていた。
家が暗くて嫌だった。


学校に行っても、みんな雨だねー、やだねー、濡れちゃった。とか言ってるから嫌だった。
全然雨の日は楽しくないの。

だけど、高校に入ってから、雨の日は憂鬱よりは違うものに変わっていった。


梅雨入り初日にしとしとと雨が降る。朝はまだ降っていなかったのに、登校途中に降る雨は私の気分をどんどん落下させていく。
学校についてもスカートが濡れていたりでじめっと湿った空気が肌にまとわりついて気持ちが悪い。机に突っ伏して時間が経つのを待っていた。

そんな中、彼はやって来た。


「火神くん、ちゃんと拭いてください」

誰かの声が入り口から聞こえて反射的に振り返る。確認すると、黒子くんだったか、あんまり見掛けない男子生徒と、その隣に赤い髪の、大きな身長が特徴の火神くんが立っていた。

「うるせえな、俺はちゃんと拭いた」
「まだ水が滴ってます」
「タオルも濡れちまったからな」
「だいいち何で傘を持ってこないんですか」
「出るとき晴れてたから」
「バカなんですか」
「うるせえ」

喋りながら二人は席に着く。場所は私の後ろの席二つ。火神くんはぐっしょりと酷く濡れていて、暫くしたらくしゃみまでし出した。確か火神くんはバスケ部のエースだし、風邪を引いたら大変だなあと思ったら、自然と鞄の中のタオルを掴んでいた。

『か、火神くん』
「んあ?」
『これ、使って?』
「これお前のタオルだろ?結構濡れてるぞ、俺」
『だって…風邪引くと部活、出来ないよ?』
「……」
「火神くん。人の好意は受け取るものですよ」
「…じゃあ、悪ぃな!」


にっかと笑って見せる彼は宛ら太陽のようだった。がしがしと豪快に髪を拭いて、それから服を拭いて、返ってくるだろうと思って手を出すと、火神くんは首を傾げた。同じく首を傾げる。何も掴めない手はどこへやればいいのか。

「洗濯して返す」
『いいですよそんなことっ』
「他人が使ったもんなんか使えねえだろ?」
『いや、でも、洗濯物増やすとご家族の方が大変…』
「ああ、俺独り暮らしだから」
『へえ…そうだったんですか……』

じゃあ任せてしまおうかと思ったが良く考えてみたら男子に洗濯してもらったタオルを使うなんて何だか恥ずかしい気がする。私物を貸すのもそれなりに勇気が要る私にとってはとてもじゃないけれど耐えられない。むしろもう洗濯してもらって、家でもう一度洗おうか。いやでもそれじゃあ火神くんに失礼……。

「火神くん、木下さんが困ってます」
「え、あ、悪ぃ」
『ううん別に良いよ。タオルは私が洗うから返してくれると、嬉しい』
「…そっか、すまねぇな」

タオルを返す火神くんの申し訳なさそうな表情が何だか可愛かった。


そんな経緯を経て私たちに接点が出来た。良く傘を持ってこなかったりする火神くんにタオルを貸すのが私の役目だ。濡れてくる彼を見るのはとても楽しい。毎回言い訳をする姿を見ていると、笑顔になる。私は火神くんに救われているんだと思う。梅雨の憂鬱さは霧散して、私と火神くんと黒子くんの三人で遊びはしゃぐ夏が待っている。


必要降水量

END



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テーマ「人外ファンタジー」
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