いつからだろうか、彼がダルいと喚くようになったのは。

幼少期まで遡ってみれば彼は確か積極的であった。普通の子と何ら変わりない日常、好奇心、食欲。それなのに成長期が彼と私たちを離そうとするように蠢き始める。すくすく大きくなる彼を羨む人が多かったが、ずっと側に居た私には全身が痛いよ、痛いよ。と泣き付いてきていたのを良く覚えている。
その度に言い様もなく役に立てない自分が不甲斐なくて嫌いだった。ただ慰めることしか出来ずに、見守るしか出来ない。

事実見守っていたら彼は変わってしまった。

やること全てが上手くいってしまい達成感もなく身体能力もあまり変わらないのに身長差があるからハンデが無いと中に入れてもらえず成長痛だけが彼を蝕んでいく。彼は絶望したのかも知れない。もうずっと昔から相手の居ない寂しさを受け続けていたのかも知れない。

努力をしたって褒めるだけで受け入れてくれる訳でもなく

かといって何もしなかったら怠惰だと罵られ

最終的には身長だけで怯えられてしまう


そんな彼がやり続けるバスケ。
中学に入り打ち込んだバスケ。
彼はバスケが大好きだった。
むしろキセキの世代が好きだった。

だって彼らは身長差なんて問題にしない。
むしろ身長差が無いと戦えない。
彼の忌み嫌う部分を長所に変えてくれた。

見ていてとても嬉しかった。ああ、彼にも打ち込めるものが出来たのだと、素直に安心できた。

けれどやはりその幸せも長続きはしない。
エースがバスケを去り、全てが崩れる。
彼の幸せも積み木の様に、下の支柱を取ればいとも簡単にガラガラとガラガラと。

彼はいつの間に泣かなくなったのだろう。とふと思った。


彼は性格が過激になっていった。普段の性格が穏やかな分、ギャップを大きくさせていく。

私はいつも見ているのに、彼は孤独だった。
私はいつも傍にいたのに、彼は孤独だった。

どうすればいいのかわからない。どうしたら彼は孤独ではなくなるのだろうかと必死に考える。彼も私も必死なのだ。誰かから必要だと言われる自分と、誰にも負けないほど大好きになれるものに対して、異常なまでに執着心を抱くのだ。
どうしようもない彼と私は似すぎていた。だからお互いを必要としながらも決定的な存在には成り得なかったの。『敦、君はバスケが大好きで、私はそんな君が大好きで、だからもう泣く必要は無いんだね』
「泣いてないし」
『汗だと言い張ってもいいよ。私だけがちゃんと見ているから。知っているから』
「……」
『まあ、もう泣くことはない君をもう見ている必要はないか』
「……つーか、何、その俺が大好きって」
『昔から言っていたじゃないか。いつも流していたから私は鬱陶しがられていたんじゃないのかと思っていたよ』
「されてないし、鬱陶しい何て言ったことない」
『いいや君は小学五年の夏に私が引っ付いていたらうっと、』
「ストップ」


彼が眉間に皺を寄せながら大きな手で私の口を覆う。思い返そうとして全く記憶が無いのだろう、視線が忙しなく動いた後、彼の瞳が私を見る。

「わかんない。誰かと間違えてるんじゃないの」
『そんなわけがないだろう』
「だって俺まいちんのこと小学生の時から好きだったし」
『……初耳だね』
「初めて言ったから」
『……』
「言ったらどっか行くかと思ってた」
「…それは、ない」
『うん、だから、やっと手に入れた』

座っていた敦か腕を伸ばして私を抱き抱える。見上げる様にして微笑む君はとてもとても眩しくて、試合に負けたなんて到底思えない。


『おめでとう敦。バスケを好きになれて良かったね』
「まいちんも片想い成就おめでとう。だから泣かないで」


涙を堪える日々に

もうサヨナラだ
だってもう彼が涙を拭ってくれるから


END



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