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青峰大輝と泣き顔

楽しいバスケに餓えた彼が荒んでいくのは早かった。中学から高校に上がると、サボりは当たり前で人に対しては暴力的、女の子に手は出さないものの口が悪く、純粋にバスケを楽しんでいた時の笑顔も見れなくなった。

黒子くんと仲がよかったのに、今では会う度に鬱陶しいといった顔をする。努力するのがバカらしいといった態度しか取らなくなって、それでいて全力で挑んできた相手には本気で臨む。彼は少なからず希望を持っている。それにすがってしか生きていけないだけ。彼はそういう人で、私はそんな人を励ますこともせず見ているだけ。さつきちゃんのようにサポートするわけでもなく、ただ様子を窺うことしか出来ない。何の役にも立てないのが歯痒かった。それでも側に居ることを止めなかったのは、私が居るだけでも何か変わらないか期待しているからだ。自惚れとかではなく、これも希望。

「大ちゃんはきっと、黒子くんが何とかしてくれるよ」
「それまでは私たちが頑張って支えよう」

そうさつきちゃんに励まされても嬉しくなかった。私には何も出来ることがなかったから。そしてさつきちゃんにはやれることがたくさんあったから。
私を励ますなら青峰くんを励まして欲しかった。勝手な思いだけど、それでも思わずにはいられなかった。

ウィンターカップで、黒子くんたちと試合をすることになった。青峰くんは珍しくやる気で、私はすごく嬉しかった。

『青峰くん、頑張って』

ありきたりな言葉しか出てこない私に、椅子に座った青峰くんは真剣な目を向けた。

「ああ」

そう一言呟いて、手をぐっぐっと握り、開いて、両手の指を組んでまた強く握った。どうやら落ち着かないらしくて、私は苦笑した。

「…なあ、なまえ」
『何?』
「俺は、今すごく、楽しみなんだ」
『うん、わかるよ』
「だけど、すげえ怖い」
『……』
「勝つのも、負けるのも、どっちも嫌なんだ」

微妙な顔をした青峰くんがじっと私を見上げた。眉間に皺を寄せた顔は険しいのに、どことなく眉尻が下がっていて情けない。勝つのが嫌なのはわかるけど、負けたくもないのは単に負けず嫌いなだけなのかな、と思うと、私は笑ってしまった。わがままな彼らしい。

『どっちでもいいから、全力で戦ってきて、青峰くん』

そうとだけ言って、下がってしまった眉尻を指でつり上げる。間抜けな顔をした青峰くんが、不敵な笑みを携えて試合に出る姿を見て、私は妙に泣きそうになった。嬉しかった。彼が笑えるようになっていくのが嬉しかった。


試合が終わって、青峰くんは平気そうにしていて、だけど解散してみんなが居なくなって、さつきちゃんが少し離れた隙に、私に抱き付いてちょっとだけ泣いた。


青峰大輝と泣き顔

その泣き顔が愛しくて、私は鼻を詰まんで笑った。

END

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