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黒子テツヤと泣き顔

※中学時代の捏造あり


あの頃何があったのか詳しく知らない私は、彼に何もしてあげられなかった。それでも良かったんだと、むしろその方が良かったのかもとさえ思わせる。彼は強い。一番脆弱に見える彼の身体はしかし誰にも負けない意志を持っているのだと、私は見ていて思ったのだ。


「僕は今日限りで、バスケ部を辞めます」

今までありがとうございました。
彼らしく律儀に礼を去っていた黒子くんを私は引き留めもしなかった。

急すぎた訳じゃなかった。何故?とも思わなかった。バスケ部は鬱屈していた。主に青峰くんと黒子くんの間が。
きっと嫌になったのだと思った。勝つためだけにに努力することが嫌になったのだ。人と人の間に出来た関係は簡単に崩されてしまったのに勝って得るものは学校とバスケ部への栄光だけで、多分黒子くんは気にしてはいなかっただろうが、自分への称賛もあの五人からしか貰えないなんて私はそれも気に入らないと思う。だからこれは必然的と言ってしまえばそうだと思える出来事なのだ。

それ以来黒子くんを廊下などで見掛けなくなった。
別に見掛けたら声をかけて談笑するような仲じゃない。会ってもバスケの話しかすることがないように思われる。けれど、影が薄くていつも見ているようで見れていなかったりする彼でも、見れなかったら寂しかったりするものなのだ。この時だけは自分を勝手だなあと思った。


そうして一ヶ月が経ってしまって、みんなバラバラのまま引退してしまって、関わることもなくなって。ふいに黒子くんを思い出してしまって、そうしたら視界が開けたのか何なのかわからないけれど、目の前を黒子くんが横切っていった。
びっくりして何も出来なかった私は、一分間放心して、さらに黒子くんがどこに行くのか目で追って、屋上に向かうのだと理解し、どうしようか迷って。

結局バタバタと駆け上がってしまった。


ギィと古ぼけた音の鳴るドアを開けても晴天しか目に飛び込んで来なかった。検討違いだったのかな、と思って日陰に移動したら、縮こまった彼が居た。

「来ないでください」
『……』
「みょうじさん、でしょう?」
『うん、あってるよ』
「じゃあ、それ以上近寄らないでください」

体育座りの状態で壁に背を預け、膝を必死に抱えて顔を隠している黒子くんははっきり見てとれるのに消えてしまいそうに震えていた。消えちゃうのかな、と思って、私は手を伸ばして彼の袖を握った。ビクリと大袈裟に跳ねた肩がまた一回り小さくなった気がした。


『泣いてるの…?』
「いいえ」
『前から思ってたんだけどね、黒子くんって嘘が吐けないんだね』
「…つけます」
『だって、そんなに目を真っ赤に腫らして嘘言ったってすぐバレるよ?』
「というか、もう行ってくださいよ」

むっとした彼がまた目から滴を落とした。黒子くんは人知れずこんなに傷付いていた。そんなことも知らずにみんなは比較的平然と生きている。黒子くんは不憫な性格なのかも知れない。
だから私は少しだけ一緒に居た。ただそれだけをしていた。彼に触れていた手も離して、目の前でしゃがんで見ていただけだった。


それでも彼は勝ち上がってきた。洛山の前で堂々と立っている。青峰くんがバスケを大好きだった時の気持ちも全て魔法のように取り返していく。だから、私が何もできなくても、彼がここまで立て直したことをとても誇りに思うのだ。

(あと少し格好良いなとか思ってみたり)


黒子テツヤと泣き顔

END




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