私は夢を見るようになった。
現実の、元の、茗荷谷いつきとしての夢を。
みんなが私の写真を見て、私物を見て、泣いている。
祈るように仏壇にお祈りしてる。
どうか娘を助けてくださいと呟いている。
私は虚しくなって、可笑しな世界に戻ってしまうのだった。



わかってはいたことだけど、私の今は夢ではない。元の世界の私は生きているみたいではあったけど、大分酷いらしい。その夢を見ても痛みはないし実感も沸かないけど、元の世界の私が死んだらちゃんと元に戻るのか、逆に私が治ったら戻るのか。桃井さつきの意識はどこにいったのか、未だわからないことばかりだ。

私は知らないうちに死んだりするのかも知れない。

「おい、いつき」
『…ん?』
「行くぞ」
『え?だいちゃん?』

布団の中でもぞもぞしていた私のことを呼びつけたのは青峰くんだった。ここは私の部屋なのになんで居るの?と聞いても、入ったからとしか答えないだろうから起き上がる。青峰くんは私服で立っていて、今日は休日だったことを思い出す。じゃあどこに行くんだろう。

『ねえ、どこ行くの?』「あ?いいから着替えろ」
『はーい』

青峰くんを部屋から追い出して、桃井ちゃんセレクトの可愛らしい服に着替える。私も一応ダイエットとかして体型維持してるのに、この身体はいくら食べても太らないから羨ましい。しかもすごく細い。最後に必要最低限のものをカバンに入れて青峰くんのところに行った。

『大ちゃん着替えたよ』
「ん」
『で?どこ行くの?』
「気晴らし」


そう言って街を歩いて辿り着いたのはゲームセンター。青峰くんも男の子だなあとか思いながらひよこのように後ろをついていった。多分こういうところは男の子同士で行った方が楽しいんじゃないかとか少し心配しながら。

「これやるぞ」
『ん?』
「これ」

これ、と手でぺしぺし青峰くんが叩いていたのは銃の模型と言えば良いのかどうなのか。ゾンビを撃ち殺していくホラーゲーム定番のあれだった。女の子なんですけど私と思いながらも、怖いものはわりと平気なので銃を構える。こんなゲーム久しぶり過ぎて少し恥ずかしいんですが。

呆気ない程すぐに死んでしまった私を放置して青峰くんがクリアしたのは五分後だった。クリアした人初めて見たんだけど。一人密かに感動していると、青峰くんがまた何かに食いついた。今度は車ですかと、シートに座る姿を眺める。私を目だけで呼んでいたので横に首を振っておいた。車はサイドにぶつかりまくって挙げ句に逆走したことがあるから少しトラウマだった。ちぇっと言ったような顔でそのまま一人でゲームをする青峰くんを残し、一人でとぼとぼ見て回ったら、一目惚れしてしまった。そのままずっと落とそうと必死に粘った。粘っても粘っても落ちる気配はない。

「何してんだよ」
『これ落とそうと思って』
「ぬいぐるみとか…ガキかよ」
『だってこんなにさわり心地良いんだよ?』

私が必死に落とそうとしていたのはクレーンゲームの景品のウサギクッションだった。結構大きくて、ピンク白黒三色あった。私が狙っていたのは取り出し口から一番遠い黒だった。

「これに何円かけたんだよお前…」
『今のところ二千円』
「勿体ねー」
『これでも結構近くなったんだよ!』
「へいへい」

面倒くさそうに返事をした後、自分の持っていた百円を入れて一回の操作でウサギクッションをがっしり持ったクレーンが、取り出し口まで揺れながらやってくるところを唖然と見ていた。このクレーンゆるゆるだったのになんで。

「おら」
『ぷっ』
「俺が取ってやったんだから大事にしろよ」
『…何か釈然としないけど、ありがとう大ちゃん』

顔に押し付けられたウサギを袋に入れて、他にも欲しいものとかを自腹だけど取ってもらって、今日はこの世界に来て一番楽しかった。何かごちゃごちゃ悩んでるよりも、流される方が楽な気がして、そんなに悩む必要もない気がしてきた。私がこんなこと悩んでるなんて気付いてないはずなのに、私の悩みを青峰くんは全て解決してくれる。本当に不思議な人だ。それはきっと、桃井ちゃんとずっと一緒に居たからわかることなんだろうと、ふと小さく思った。


何で貴女なの。

どうして彼の幼なじみなの。

END

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