次の日から早速、授業も終わった放課後、青峰くんを放置でバスケの試合映像を見てデータをとる。地道に選手各自の動きから全体の動きを読み、パターン化して、それをデータとしてノートに書いていく作業は苦痛でしかない。こんなの良く出来たな桃井ちゃん。

出方や煽りへの返し、表情やパスを貰ったときの態度、全てがデータになりうる。一つでも読み間違えれば全てがずれてしまうプレッシャーもある。個人の性格なんかも読まなければならない。今度は偵察にも行かなければいけないのか、と考えると挫けそうだ。

それでも私は完璧に私である桃井さつきを演じなければならない。物語を変えることが、一番怖いから。知らない展開へもつれ込んだ結末なんて全くわかったものじゃない。出来れば、少しでもわかっている方へ行きたい。誠凛との試合が私の希望なのだ。

「…なんやえらい調子良うなったなぁ」
『前はちょっと、疲れてただけですよ』
「そーか。無理しいなや」
『……急かしたくせに』
「ワシ耳エエんやで」
『知ってますー』

話しながらも目は画面を見つめたまま。態度が悪いけど、このくらいの仕打ちは許して欲しい。わざと私を焦らして反応を見て楽しんでいたのだから。
ノートを見つめて少し、顎をさすり後ろで笑ったのを空気で感じた。

「データの精度、上がっとるんちゃう?」
『初心に戻ってみました』
「ふうん…でもこれだけ見たらまるで別人みたいやね」
『っ……何か前より見にくかったりしました?』
「上出来やで」

振り替えって見やるとわざとらしく手をヒラヒラと振って笑って見せる顔。ちょっとだけ動揺していたのも多分バレている。でも、理由とかはまだ、バレてないはず。

『疲れたので、続きは家でしますね』
「大丈夫かいな」
『…ビデオ、借りていきます』
「エエよ」
『………さようなら、主将』
「さいなら」

さっと立ち上がって今吉さんの横を通りすぎる。あの人と喋ってると、不安になってきてデータ作成も失敗しそうだった。
家に帰るつもりだった。それでもこの世界でたった一人の私を大切に思ってくれる人に少しでも会いたくて、学校で居そうな場所を歩き回った。屋上に居たその人は、起き上がってあくびを一つした。

「部活は行かねぇぞ、いつき」
『…うん』
「また今吉に何か言われたのかよ…」
『うん』
「こっち来い」

手招きされた元に近寄って座る。青い瞳を間近で見ると、何だか落ち着いてしまった。これは桃井ちゃんの感情なのかな。青峰くんは私の頭を自分の肩に押し付けて頭をぽんぽんと叩くだけだ。それでも安心して、少し泣いてしまったのは私の感情なのかな。

少し濡れてしまった肩も気にせず青峰くんはずっと私を慰める。すがるものを探すみたいに、私は青峰くんの服を弱々しく掴み、確実にしわを作った。


弱小メンタル

END

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -