カチカチカチカチ鳴らすだけ鳴らしてなにもしない無情な行為をする。対象は全く感情が無いから別に関係はないけど。

『青峰くん』

ふと名前を呼んでみたら、良く聞こえる耳が音を拾ってしまってこっちに来てしまった。どうしたという表情を出してはいるけど口にはしない。幼馴染みであるからとかじゃなくて面倒なんだろう、私の言葉をじっと待つ姿は何だか忠犬に見えた。

『…聞こえちゃった?』
「聞こえたって…呼んだんだろお前が」
『まあねー…』
「で?」
『よ、呼んでみただけー…なーんて、』
「お前にからかわれるなんてな…」
『その握りこぶしは何ですか』
「グーパンチ」

予告通りに落下した拳は脳天を直撃した。鈍く地味な痛みが広がって頭を擦る。

「わ〜、青峰くん暴力振るってはるー」
「あ?」
『あ』
「女の子に暴力降るったらアカンで」
『青峰くんとは違って今吉さん優しい』
「…もっかいいくか?」
『ごめんなさい』

関西弁の彼がおちゃらけながら仲裁に入った。眼鏡の奥は漫画と同じ、ずっと笑っていて見透かされている感じが少しだけ怖かった。青峰くんは少し睨んでからまた練習に戻る。練習にと言っても、青峰くんの練習メニューは意味を成さず自分勝手に動いていたけど。


「…桃井さん」
『、はい?』
「最近、なんや調子悪いん?」
『何でですか〜?』
「無理しとるんちゃうかなぁ、って」

顔を近付けて聞いてくる様子は私の変化に気付いているという意味なのか何なのか。笑みがさっきより濃くなっている。勘が良いのは青峰くんだけじゃないと思い知らされる。怯えたように縮こまった私から少し離れて、今吉さんはまた笑った。

「ちょっと仕事の手ぇ休まっとるみたいやから言うてみただけや、そない怯えんでええで?」
『…はは』

自然と笑えない。マネージャーとしての仕事を、はやく再開しなければ。他校のことを、詳しく調べなければ。焦る内心が邪魔だ。どうするべきか、どう調べあげれば良いのか、桃井さんのデータを見てみるべきかな。
「おい、いつき」
『んー?』
「帰んぞ」
『は?』

引っ張られて体育館を出て、荷物を持った青峰くんが私を外へ連れ出す。塞ぎ込んだ私の気持ちが一気に解放されて、安心していく気がした。タイミングの良い人だ。今吉さんに急かされた私の焦りが伝わってしまっただけかも知れない。でも、これは私に向けられた好意なんだろう。私を通した桃井さつき、彼女への、無償の。

「またぼーっとしてんのか?」
『…ううん、してない』
「じゃあはやく来いよ」

強引でもある彼の行為は、何もわからない私に居場所を取り戻してくれる。だから私も努力しなくてはいけない。最初は簡単な知識から身に付けよう。


私の居場所

桃井さつきにちょっとした罪悪感を抱きながら
私は安住を求めてる


END

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