『代入する場所が逆。ここはこっち』
「……」

確信出来たのはこの時だった。何故かいつきを別人だと思った。床に座ってる俺とベッドに座ってるいつきだと必然的に見上げるようになって、その角度から見たからなのか、酷くキレイだと思ってしまった。あの時俺は確信した。いつきは別人なのだと。

実は最初から何となくわかっていた。ぎこちない呼び方だとか、スキンシップだとか、喋り方だとか、上げればきりかないくらい違和感だらけだった気がする。そんなもん真剣に考えたって、お前って本当に桃井いつき?とか聞こうもんなら総すかんだろう。あってようがあってなかろうが適当にあしらわれてた。だから俺は、少し調子が悪いだけだろうと自分に言い聞かせてみた。しばらく様子を見ることにした。

一日経つごとに、いつきは成長していった。目に見える早さでスランプを脱出したように他のやつらからは見えただろうが、それは違う。仕事を一から覚えているのだと、そう思わせるようなところがいくつかあった。昔のデータやノートを引っくり返して見たり、仕事の手順も忘れたように計算の公式を見つめていた。桃井いつきという幼馴染みはそんな見返さないと公式を忘れてしまうほど仕事は少なくない。むしろレギュラーの体調にはずっと目を見張っていた。そんなやつがド忘れなんかするわけがない。

桃井いつきは何かによって他人になった。俺はわかっていてその別のいつきと過ごした。何故かいつきには感じなかったものを感じるようになった。嫉妬、というものも初めて知った。何でかはすぐにわかった。無意識にいつきを受け入れていたのも全て、いつきに一目惚れみたいなものをしてしまったからだ。きっかけなんてなかった。最初からいつきが好ましかった。出会った時の記憶は曖昧だが、そんな運命的な何かがあったんだと、そう思った。

『ねえ、青峰くんってロマンチストなの?』
「違えよ」
『そうかなー、今の話は完全にロマンチストの語り方っていうか…喋ってて恥ずかしくなかった?』
「あーもー、うっせーな…お前が喋ろって言ったんだろうが」
『怒んないでようるさいなぁ』

逆ギレをするほどこいつは図々しくなった。態度も俺を本気でひっぱたけるぐらいまでになった。いつきは変わった。でも嫌いにはならない。

『青峰くんがロマンチスト、いいじゃん。可愛いよ』
「……んなの言われたって嬉しくねえよ」
『あとね、運命的ってちょっと違う気がするんだよね。どっちかっていうと偶然だと思う』
「運命と何か変わんのか」
『運命って、決められてるみたいじゃん。偶然の方が私たちの意思って感じみたいで好きだな』
「お前も人のこと言えねえな」

ロマンチストだとかそんなのは関係ない。俺たちの価値観が普通でも俺たちの経験がもうロマンチックなもんなんだからどう表現したってこうなることは仕方無い。とりあえず、こいつがここに居る限りずっと触れていようと腕の中の身体を抱き締めた。





END

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読破お疲れ様です。ここまでお付き合いくださりありがとうございました。

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