『気付いてたの』

そう聞くと、彼は何ともないような顔で

「まあな」

とだけ答えて、いつからとか、そういった話はしなかった。そんな話はどうでもいいらしく、話を元に戻そうと口を開いた。

「で、どうなんだよ」

したり顔でそう言われれば、羞恥と苛立ちに頬が上気し、その気恥ずかしさを誤魔化すために膨れっ面を作る。これは桃井ちゃんのまねをするようになってからやるようになった仕草で、私の半分は最早桃井ちゃんで、だから青峰くんとも打ち解けることが出来たのかも知れない。
視線に急かされて、私は口を開く。


『…好きです』
「おう」
『でも、もしかしたら私、急に戻っちゃうかも知れない』
「まあ、お前がどうして変わったとかは知らねえけど、多分ねえから安心しろよ」
『また勘?』
「よく当たるから心配すんなよ」
『バカ』
「うっせえ」

とか言い合いながらどさくさに紛れて抱き着かれて、抵抗もしなかったらベッドに倒れ込まれて、驚いてもがいたらさらに抱き締められて、でも結局何もされなかった。ずっと話をしていた。私がいきなり桃井ちゃんに成り代わってたことや、私が元いたところはどんな環境だったか。漫画のことには一切触れないで話をしたから、ちょっと話の筋が通らなかったりはしたけど、それでも青峰くんは突っ込まずに聞いてくれた。初めて私たちは、お互いのことがわかりあった上で話をした。


「こっちにいきなり来たとき、不安じゃなかったのかよ」
『すごくビックリしたよ?ほら、授業始まる前に慌ててトイレに行ったじゃない』
「……」
『覚えてないならいいよ、もう』
「拗ねんなって」

にか、そういう笑い方をする青峰くんは新鮮で、愛しかった。はやくそんな顔を、バスケでも取り戻して欲しいと思えた。私たちはその日から、隠れて付き合い始めた。


―――――


夢を見てたの。
長い夢を。
夢の中で私は貴方に恋をした。
夢の中で貴方は私に恋をした。
幸せだった。
幸せだった。

貴方との夢は幸福に溢れていました。


『……』

戻ってきた。そう目が覚めた瞬間に自覚した。ここは元いた私の世界だと悟った。
私は、あの後大輝と高校を卒業し、大学でもバスケを続けた彼のサポーターになり、プロとして活躍する彼のチームのマネージャーになり、そして結婚をして、子供にも恵まれ、幸せに暮らして…

最後は、先に死んでしまった。彼はずっと黙って側に居てくれていたし、私も黙って彼に手を握られていた。そんな時間さえも愛しかった。

まだ高校生だというのに、一生を夢で見てしまった気分で、私は何となく虚無感に襲われた。大切なものが一気になくなってしまった。自然と流れていた涙を拭って、とりあえずバスケをするために手足に取り付けられているギプスを外すべく気合いを入れた。





叶うなら同じ夢を見たいと思いながら。


END

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テーマ「人外ファンタジー」
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