彼が好きなのは桃井さつきだ。だから涙が出た。悲しかった。私も失恋したようなものだった。変なトライアングルを作りながらも、一日は過ぎていく。

昨日、彼を振ってからも私たちは一緒に下校した。というか彼は寮で生活しているので、学校から私の家まで私を送ると言う目的のためだけに来ていたのだが。ごめんなさいと言った私に彼は優しかったと思う。泣くなとまた慰めてから泣き止まない私の手を引いて家まで送ってくれた。彼は優しかった。つまり桃井さつきへの好意も消えていない。少なくとも幼馴染みとしての絆はあった。

彼の優しさに甘えている部分もあるのだが、いきなり会話もなくなる幼馴染みの二人なんて不自然極まりない。きっとちょっとした噂にもなってしまうし、漫画の内容に沿えてもいない。せめて会話は出来るような状況でいなくてはいけないのだろう。

変わりなく過ごす、なんて不器用そうな彼は出来るのだろうか。

「またな」
『うん』

素っ気なく交わす挨拶も変わらない。何一つ変わらないのに、どうしても愛しく思えてしまう。私は欲張りだから、彼の隣に居ることを望んでしまうし、彼が新しい誰かを好きになったら耐えられないかも知れない。それでも彼は立派に耐えているのだけど。


可愛らしい部屋に着くなりベッドに沈む。こうでもしないと気持ちが落ちてどこまでも深く考えてしまいそうだったからだ。彼が私の返事に、どう感じたのか。彼は傷付いているような素振りを一つも見せてこない。それが元々の性格から来る強がりなのか、私に気を遣ってのものなのか、傷付いていないのか。見分けることが出来ないのは私がこの状態に混乱しているからなのかも知れないが、青峰くんが冗談であんな恥ずかしいことを言える人ではないことは分かる。

『何でわざわざこのタイミングなの』

ずっと昨日から思ってた。ずっとずっと疑問だった。漫画で付き合っているとかそういう類いの記述も無かったし、幼馴染みとして仲は良かったけど異性として意識してた様子も無かった気がする。なら何故、私は告白されたのか。前から青峰くんは好きだった、とかだとしたら、入れ替わってから告白されるなんて不幸すぎる。もっと早くに告白されていて、桃井ちゃんと青峰くんが付き合っていること前提だったとしたら、あるいは私は青峰くんを好きにならなかったかも知れないのに。

つまり、タイミングが悪すぎたのだ。私が入れ替わって間もない頃だったらここまで罪悪感も複雑な感情も持ち込まず振ることだって出来たのに、惚れてしまってからというところがまた救いようがない。

『何で今なのよ、鬱陶しい…』
「誰がだよ」
『はぁ!?』

瞑っていた目を開き声のした方へ視線を向けると、制服姿から私服になっていた想い人がそこに寛いでた。よっと軽く手を上げて返事をした彼に弱冠、というか結構苛立ちを覚えた。人が折角青峰くんと桃井ちゃんの感情について真剣に悩んでいるというのに随分本人は暢気だ。

「そんな険しい顔すんなよ。また告白しに来てやったんだからよ」
『……何言ってんの?ついに頭可笑しくなっちゃった?元々救いようのないバカだったけど』
「今日はやけに突っかかんな…お前が後悔してると思って来てやったんだ、ありがたく思えよ」

ふんぞり返って本当に偉そうにする青峰くんに、頭痛と目眩が止まらなかった。どうしてこんな自信があるのか知りたい。羨ましいくらいだ。そんな強気な彼に一度溜め息を吐いて告げる。

『何回言われても、付き合う気はないの』
「何でだよ」
『好きじゃない』
「嘘吐いてもわかんだよ、いい加減強がんな」

怒気を含んだ声と眉間に皺の寄った顔に身体が強張る。青峰くんの言っていることは間違いではない。だけど、当てずっぽうなのだろうか?勘は良いがそういう方面にはあまり詳しくない、そんな印象だったのに。今の青峰くんはやけに強気だった。

『なんで、そう思うの?』
「わかんだよお前のことなんかよ。どんだけ見てきたと思ってんだよ」
『…それって、昔からってこと?小さい頃から?』
「何言ってんだよ」
『やっぱり、私は青峰くんとは付き合えないよ』
「ちょっと待て、早とちりすんな」

待て待てというように手を上げて私を落ち着かせて息を吐く姿に自分が落ち着いていく。静止した私を確認してから、青峰くんがゆっくり言葉を漏らした。

「俺は、今のお前のことを言ってんだよ。意味はわかるよな?いつき」

心臓が大きく脈打つのがわかった。


とらえられる


END

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