木下まいの朝は早い。それはバスケ部マネージャーとして朝練に参加するためであった。
今日も朝から頑張るバスケ部員たちをきっちりサポートしよう、と知らずと力が入る。

さすがに朝から青峰を部活に引っ張って来ることはさつきにも不可能なので、そっちは放課後頑張る事にして、まいは部活へと向かった。



「おはようまいちゃん!」
『お、おはようございます…!さつきさん』
「おはようさん。今日も早いなー」
『あ、お、おはよう…ございます!』
「ああ、あんま気張らんでもええで。リラックスしときや?」
『はい!』


主将の今吉もマネージャーのさつきも部活に来るのが早い。必然的に会話をするため、まだ今吉には緊張してしまうものの、まいはさつきとはすっかり馴染んでいた。


「じゃ、今日もよろしくね!」
『はいっ』


まず、まいの仕事は今日部活で使う道具の準備である。ゼッケンやボールや工事中等に見受けられるカラーコーンなど。さつきに朝練習内容を教えてもらい準備をする。
粗方出し終わるとまだ時間では無いのにパラパラと人が集まり始める。道具を出し終えると今度は部室の掃除だ。放課後は時間が無いため朝に済ませてしまう。たまにロッカーの整頓をしようとすると全力で止められるというやり取りも見受けられた。


掃除が終わって数分後、部活が本格的に始まる。
各自基礎練習や自分の特性を伸ばすための練習を黙々と続ける様を、まいは体育館端からずっと見詰める。
まいはバスケ初心者だ。だが、バスケ部マネージャーとなるからにはルールくらい覚えなくては、とその日のうちにバスケの本を買い、勤しんで居たため、大体の事はわかるようになってきた。



「「「「「あざっした!!!」」」」」


朝練が終わると急いで教室に戻る。バスケ部の朝練はギリギリまで行われているため、急がなくては遅刻になってしまうのだ。


多少小走りになりながらも無事教室まで辿り着くと、必然的に青の髪に目が行ってしまう。自分の席に座りながら、机に突っ伏している青峰に声を掛けた。

『お、はよう、青峰くん』
「……」
「……?」

どうやら寝ているようで全く反応は無いので、まいは予習をして時間を過ごす。今日は授業も比較的楽なため、予習もすぐ終わってしまう。もう一度チラッと青峰を見ると、いつの間にか彼はまいをガン見していた。

『っ……』
「そんな驚くなよ。結構前から見てたんだし、はよ」
『お、はよう、ござい…ます』

返事を返しても逸らされない視線に多少居心地が悪くなるが、青峰はそれでもまいを見つめる。
朝学活のプリントが配布され出した頃に、青峰は口を開いた。

「無理してねぇか?」
『な……何を…………?』
「マネージャーだよ、マネージャー」
『ま、マネージャーの仕事…楽しい、よ』
「本当か?」
『本当だよ。だって、みんなが頼りにして、くれてるし……』
「……」
『それに、さつきさんとも、仲良くなれるし……』
「……」
『………でも、たまに、大きな声…は、びっくりする』
「そーかよ」

でもな、と続けて青峰は手を伸ばす。まいはその手に何もすることなく見つめている。青峰の手が捉えたのはまいの目尻だ。

「隅作ってまで頑張るなよ」
『え、隅ある…?』
「ああ、うっすらな」

まいは確認しようかと思ったが生憎鏡を持ち合わせていないため、無意味に目の下を擦る。

「なあ、隅作るまで早起きして頑張る意味あるのかよ?」
『……?』
「そんな価値あるのかよ」
『…そ、れって………バスケの、こと…?』
「そうだよ」


鋭い目がまいを見据える。今までに感じたことの無い気迫に、まいは息を呑む。何かを試されているような、また何かを期待されているような、祈るような視線は、まいに深く深く突き刺さる。


『ば、バスケ…は、まだ、よくわからな、い……』
「…………」
『けど、先輩や、さつきさん…や、同級生が頑張る…なら………それなら、一緒に、頑張りたい…』
「……」
『支えたいの、青峰くんが…大切に思うバスケを』
「………」
『え、偉そうにごめん、ね………えへへ、私はまず、ルールから覚える、から……』


本心を口にしてからまいを後悔が襲う。黙ったままの青峰はいつの間にか視線を下げている。落胆しただろうか、とまいはどんどん不安になる。


「……………今日」
『へ?』
「今日は、部活行ってやるよ」
『ほ、本当!?』
「練習するかは別だけどな」
『うん!わ、わかった!!一緒に行こう、ね!』
「ああ……」


まいのはしゃぎように青峰は呆れる。それと同時に胸の奥がこそばゆく苦笑する。まいがはしゃぐのも仕方がない事だ。何故なら、まいは青峰のプレイに惹かれた様なものなのだから。


「…変な女」


小さく笑う声をまいが聞くことは無かった。


貴方のバスケ

END


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