それは素人目から見てもわかる程の圧倒的強さだった。



『わぁ……』


ホイッスルと共にジャンプボールが始まった。ボールを弾いた手は青峰のもの。すぐにチームの今吉がボールを受け取りゴールに向かってドリブルをする。当然ディフェンスが立ちはだかり、途中で手詰まりとなった今吉はボールをパスし――


「おっしゃ、さっさと決めるぜ!!」


青峰の手に渡った瞬間、空気が急速に変わっていく。
一気に加速する青峰の速さに最早後ろに居た者全てが置いていかれていた。前で待ち構えるディフェンスを速度の強弱で抜き去り、既に三人を抜いていた。
息を吐く暇を与えてはくれないその切り込み方にまいは唖然とする。そしてどんどん引き入れられる。青峰はもうゴールまで辿り着いている。


足を折り曲げ床を蹴りつける様にして、青峰は飛んだ。飛んだ様だとまいは思った。それ程のジャンプだ。
そのまま青峰の手はゴールまで伸び、不敵な笑顔が声を上げる。


「っりゃぁあ!!」


ガシャン!!という表現では温いような、そんな轟音が鳴り響き、青峰は地に降り立つ。

「今のがダンクな!」


平然とした態度で言われ、まいは呆気に取られる。ダンクというものは難しいものじゃなかったのか、と自分の常識を疑うほどに、青峰は軽々とダンクをしてのけた。

「くっそおお!!取り返すぞ!!!」


青峰の態度が敵対する若松に火を付ける。現時点で彼は青峰の敵チームだ。
回されたパスを上手く繋ぎ合わせ、ゴールまで果敢に攻め込むのだが、そこは最早、青峰の独壇場だった。
絶対的な力を持つ青峰に、挑む誰もが出し抜かれていく。自由な動きに翻弄され、面白いぐらいするすると人の間をすり抜ける。ゴール裏まで追いやったと思えば裏からでもシュートを決め、それはとても


『サーカスみたい………』
「サーカス…?」
『あ、えっと…じ、ジャグリングとか…みたいだな、って…』
「そっか、初心者から見たらそんな風にしか見えないよね。私からも、あんなシュートの打ち方はデタラメだって思うもん。」
『見ていて、楽しい…です………でも』
「ん?」


試合を見ていたさつきはまいを見て驚く。その顔は先程まで楽しいと言っていた人のものとは全く似つかわしくないくらいに歪んでいた。


『でも、青峰くんは…楽しんで、るんです、か……?』
「……」


最初こそ笑顔を見せていた青峰だが、今の青峰は全く笑っては居なかった。それどころかダルそうに眉根を寄せて、今にでも止めた、と何処かへ行きそうだった。


『も、もしかして、私、青峰くんに、無理、させたんじゃ…』
「まいちゃんが無理させたんじゃないよ、多分。青峰くん、人のために無理するほどお人好しじゃないよ。きっと無理したかったのよ」
『……?』
「だって、青峰くんはバスケが大好きだから」


こんなに綺麗に笑う人、居るんだな。と、まいは暢気なことを考えた。


***


『青峰くん、お疲れ様…です。どうぞ』
「おう、サンキュ」
『あ、あと』
「お?」
『わ、私…っま、ま…マネージャーに、な、なりたい…っ』
「は?」
『ば、バスケットボールって、あんなにすごいんだって、すごく感動、して……さ、支えたいなって…思ったの』
「本当に!?!?」


嬉々として声を上げたのはさつきだった。


「実は気絶しちゃってる時にキャプテンに話してたんだー!マネージャーは大歓迎だって言ってたし、是非まいちゃんになってほしいな!」
「おい、ホントに良いのかよ」
「大丈夫!まいちゃんの担当は、青峰くんを部活になるべく連れてくる事と、もう一つは部活の衛生面を支えて貰うだけだから!」


嬉々として話を続けるさつき。桐皇学園は近年バスケに力を入れ始め、徐々に力を付けていた。もちろん、学園が力を入れているのだから、他県からも海外からも、力のある選手を引き抜いていたのだが、問題はそこにあった。
力を付けていると言っても目立った実績を上げていないバスケ部は、選手が増え始めたにも関わらずマネージャーが一向に付かなかったのだ。桃井さつきだけが、唯一のマネージャーとして事務的な仕事をこなしているのだが、桃井さつきは他校のバスケ部の分析、そして他校との交流を中心に仕事を請け負っていた。故に部活の衛生面は手が回らなかったのだ。


「お願いまいちゃん!」
『せ、洗濯と、掃除なら……』
「良いの!?やったー!!女の子が居るって良いね!私ずっと何か溶け込めなかったから嬉しいっよろしくね!」
『あ、は、はい!』

抱き付き喜ぶさつきに呆れながらも、青峰は少し考えて、まあ、と繋げる。


「さつきにメシ作らせたら死ぬからな。試合の差し入れ、ちゃんと作れよ?」
「何それ!!大ちゃんのバカ!!」


騒がしい二人に挟まれながら、こんなに騒々しいのに嫌ではないと感じる自分に、まいは不思議な気持ちになる。


外はもう夕暮れだった。



まだら模様に変化して

END


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テーマ「人外ファンタジー」
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