既に青峰はバスケ部の練習に参加していた。桐皇学園への入学を決めたのは、学園からスカウトが既に来ていたからであったため、すぐに練習に参加する事を余儀無くされて居たのである。残念なことに彼はサボり癖があるため余り真面目に参加したことは無いのだが、現時点では一年生は雑用と基礎練習程度しか許されていないのを、青峰はレギュラーとしてチーム練習にまで組み込まれていた。

それでも青峰の生意気な態度を許せる人ばかりではないのは必然的な事であり、一部からは不満の声が漏れていた。せめて、練習だけでも真面目に参加してくれさえすれば、その声も減ってくれるのではないか、と部長である今吉が思っていた頃であった。


「今日も部活に来てへんのかー」
「す、すいません!」
「桜井は謝らんでええて」
「アイツなんか居なくても大丈夫っすよ!!さっさと練習しましょう!!!」
「せやなー」


そんな会話が交わされた時だった。青峰の幼なじみ桃井さつきが到着して数分。経緯を知り何時もの様に青峰を呼びに出ようとしていた時である。


「あー…来んの四日振りか」
『な、何回か来たことあるんですか…?』
「一応な」


堂々と体育館に現れた青峰に一同は唖然とし、自身の目を疑う。さらに信じられないことに、青峰は同学年だろうと思しき女生徒を隣に連れているのだ。これには幼なじみであろうとも予測不可能な事態であり、みな目を丸くさせていた。


そんな状態に逸早く気付いたのはまいであった。

『あ、あの…本当にお邪魔していいんです、か?』
「ん?良いんじゃね?マネージャー希望つっときゃオッケーだって」

楽観的な言葉を返されまいは不安になり、自然と知り合いである青峰との距離が近くなる。
先程のひっそり交わされた会話も、端から見たら気の弱い彼女らしき女生徒が青峰にじゃれつく様にしか見えない。周りの勘違いは加速していった。


「あ、青峰くん…」
「おう、さつき。呼ばれる前に来てやったぜ」
「えっと、そちらは…?」


傍まで寄ってきた二人にさつきは声を掛ける。遠くに居たのでハッキリ見えはしなかった女生徒まいは、近くで見ると前髪は少々長いものの、ルックスも上、体型はさつきに比べると平均的だが、それでも彼女になるとしたら申し分無い。むしろ、彼女になってくださいと名乗り出る方が多いのでは無いかと思われた。


「ああ、こいつ、マネージャー希望だってよ」
『あ、け、見学しに来ました。木下まいです……』


か細い声が響き、とりあえず周りの部員は整理をし始める。青峰は練習をしに、ついでにマネージャー希望の生徒を連れてきた。そして大半の者が、まいを青峰の彼女だと認識していた。

「たまに来たと思えば彼女連れかよ!」
「あ?」
『え……?』
「…………………?」


若松の一言に青峰もまいも疑問符を頭の上に浮かべるので周りも釣られて首を傾げる。やはりすぐに状況を理解したのはまいであった。


『ち、ちがい、ますっ』
「あ、いや、すまん!勘違いして!!」

真っ赤になって俯き羞恥心に耐えて震えている。彼女にとっては大きい声だったので青峰も少々驚いている。まいは青峰に悪いと思って声を張り上げたのだが、青峰は機嫌が悪くなる。


「そんな冷たいこと言うなよまい」
『え…え、青峰く……ん?』
「照れなくてもいいぜ?」
『え、あ…』


いきなりの名前呼びに加え、肩を組まれたための至近距離にまいはもはや言葉を失った。
そんな様子を見たら周りは青峰の言っている事がどうであれ、まいは青峰に想いを寄せているのでは…と思うのも仕方がないのだが、まいはただ男子への免疫が全くと言って良い程無いだけなのだ。


『あ、う…ぐ、あ、あおみねく……』
「あ?何だよ」
『はな…はな………』
「はな?」
『は……な………………し………』


そこでまいの記憶は途切れる。理由は簡単なもので、余りの緊張に失神してしまったからだ。バスケ部全員が騒然とし、青峰は唖然とする。
そんな中、今日の練習が始まった。



子猫は困る

END


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