四月の暖かい気候が睡魔を呼び寄せ、授業中は目蓋がくっついてしまいそうな生徒が多数見受けられる、そんな光景を数日間見ながら、まいは悩んでいた。

入学式も終わり、他の行事も終了したこの時期、ざわざわと人が大行列をなす。新入生をターゲットとする勧誘の列が進行を妨げるのだ。
回りからは一緒に野球やろうぜー!など、在り来たりな言葉を大声でいい続ける上級生。そこを一人でぽつんとまいは歩いていた。今は放課後だ。


「あ、君文学に興味ない?一緒に書物を……」
『あ、はい』
「君可愛いね!ウチのマネージャーになってくれないかな?部員も士気が……」
『え、あ…』
「ソフトテニスに興味ない!?」
『……』


勧誘の前を通る度ことごとく声を掛けられビラを渡されるまいの手にはもう十数枚の紙が握られており、混雑した中を流れるように移動してきたため紙はくしゃくしゃになっていた。勧誘の時期には毎年こうなっているためまいはもう慣れているのだが、慣れることと疲労を感じないこととはまた別らしく、学園内の所々に設置してあるベンチに腰を掛けて一息吐いた。


『どうしよう…』
「何がだよ?」
『部活、何にしようかな…って』
「ビラたくさん貰ってんなぁ」
『半ば押し付けられ……青峰くん』
「やっと気付いたか」


後ろから見下ろしていた青峰はまいの隣に腰掛けた。そしてまいの手中にあるビラを取り、粗方目を通していく。


『あ、青峰くんは、何に入るか決めたんですか?』
「あー?バスケだよ」
『そうですよね、中学の時もやってたんですもんね』
「まあな。お前は何やってたんだ?」
『私は美術部、ですね』


へー、スゲーじゃん。と呟いて青峰は美術部のビラをまいに渡す。しかし、まいはまだ美術部に入ると決めている訳ではなかったので受け取らなかった。少しだけ不満げに手を引っ込め、青峰は尋ねる。


「何と何で迷ってんだ?」
『……これといって特にやりたいものも無いんです』
「じゃあ帰宅部でいいんじゃねーの?」
『そう、ですよね。でも、何かしたくて』


言っていてまい自身もなんと曖昧な意見だろうと呆れてきたため、笑顔を作って笑い話にでもしようと思ったのだが、青峰は思ったより真剣に考えているのか黙ってビラを眺めていた。


「やりたいことか……今んとこねぇのか?」
『はい…』
「じゃあ今、やりたいこと言え」
『え?』
「今やりたいことから見つけてきゃ良いだろ、そっから辿っていけばやりたいこともいつか見つかんだろ」


何ともノープランで本能的な考え方だろう、とまいは思ったが、彼は依然として真剣である。そして、考え込んで何も出来ない自分より実に有意義だと思い、自身も真剣に考え始める。
最近興味のあることから、自分の身にあった出来事まで、全てを思い返してまいは一つだけ答えを出した。


『わ、私…青峰くんのバスケが、見たいです…!』
「………………あ?」
『あ、や、やっぱりダメ…ですよね。す、すみません……』
「ああ、いや、いいんだけどよ。そんなんで良いのかよ」
『…はい』


柔らかく微笑んで返事をするまいに青峰は少し驚きながらもすぐに口角を吊り上げた。

「じゃ、今度部活見に来いよ」
『は、はい!』


ぱあっと明るくなったまいの顔はとても気持ちの良いもので、青峰も釣られて笑顔になった。


興味ある君に


少しでも近付きたいの


END


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