さつきにバレて、部活内に広められてしまった青峰とまいは、部員全員に温かく受け止められた…訳ではなく、約一名だけ諦めの悪いのがいた。今吉はまだ諦めてはいないらしく、ちょっかいを出しては青峰に追い払われを繰り返していた。そんなときに、さつきから提案が一つ出たのだ。

「付き合ってからデートしたの?」

一言に、青峰とまいはきょと、と首を傾げる。そういえば思い返してみると一度もないかもしれない。バスケバカの青峰な限り、ウィンターカップが終わるまではデートはないとわかっていたまいにとっては当然だと思っていたのだが、さつきは事実を知りまくし立てる。

「デートって大事だよ!お互いのこと良く知れるし、もしかしたらまいちゃん青峰くんのバスケしてる姿に惚れてただけで、一日中のんびりしてる姿見たら愛想尽かしちゃうかも知れないし、ね?」
『な、なんでそんな話に…』
「今の気持ちは幻想かも知れないでしょ?早めに知った方が傷は浅いよー」
「おいこらさつき、勝手なことばっか言ってんなよ」
「えー!だってまいちゃんが勿体無いんだもんっ」
『あの、でも、デート…良いですよね』
照れながら言うまいを見れば、青峰が悪くないと思うのも必然的なことであり、今度の土曜日に丁度部活休みあるよ!というさつきの言葉に、急遽デートの予定が立てられた。


***


「……」

青峰は今何故自分が一人なのか理解出来ないで居た。待ち合わせ場所に珍しく遅刻せずに来れたまでは良かったのだが、その場にはまいが居なかったのだ。普段ならば予定の一時間前にでも来ていそうなまいが遅刻なんて珍しい、と思いながらもその場で待つこと一時間、未だに現れないまいに青峰は苛立っていた。

「なにやってんだアイツ…」

待っても来ないまいに不安も募り、ケータイを手に取ると、心中の人からのメールが来た。開くと今日は行けなくなりました。とたった一文だけが書かれている。おかしい、と思ったのは、まいがこんな一文だけで約束を無下に出来る人間ではないという事実から。青峰はそれに気づきながらも一文だけしか送ってこなかったことに堪忍袋の緒が大爆発だ。

「家乗り込んでやる…!」

褐色の目付きの荒い男が走っていった。


***


「確かここだったよな…」

ついた場所は学校からも青峰の家からも遠すぎない所に建てられているマンション。まいが住んでいる部屋の番号も一応確認済みだった青峰は、部屋の前に立ってインターホンをゆっくり押す。くぐもった音が聞こえた後に、トタトタという音が聞こえ、扉が開けられた。

『は、はい…!』
「よっ」
『えっあ、青峰くん!?』
「今日来れなかった割には元気そうだな」
『あ、あのっこれには訳があって…!』
「うあああああ゛あ゛ああっ」


手を必死に振って弁解をしようといつもとは全く変わって口を動かし続けるまいの声を遮ったのは、けたたましい程の泣き声だった。奥を見てみると、残留歳くらいの男の子が床に座り込んで泣いている。慌てて戻っていくまいにつられて中に入れば、より一層音は耳に反響した。せめて外には漏れないように、青峰は扉を閉める。

『ど、どうしたの?転んだ?』
「うああっあああああ!」
「今日来れない理由はこれか?」
『甥っ子、なんですけど、今日お世話を頼まれて…良く泣く子で……』
「へー」
『さとるくん、泣き止んで?』
「ま゛ま゛あああああっ」


泣き止みそうにないさとるにまいまで泣きそうな顔をしている。唯一どうでもよかった青峰も、泣き止ませようととりあえずしゃがんで、子供の頭を鷲掴む。

『あっおみねくんっ』
「おら、泣き止め」
『そ、そんなにぐりぐり撫でなくても…』
「ま、ま゛…」
「母ちゃん帰るまで遊んでやるよ、おら泣き止めっつーの」
「…ぅ、」
『……すごい』

さっさと泣き止ませてしまった青峰は、手近なおもちゃを手に取って子供に渡し、一緒に遊びだした。泣いていた面影など、最早無くなっている。どうやらお守りは青峰の方が上手いらしい。


「まいだけだと不安だから今日一日これに付き合ってやるよ」
『本当ですかっ』
「ああ、まあ遊ぶ予定だったしな」
『…すみません』
「ほら、落ち込んでねぇでお前も入れよ」


いつの間にかおもちゃでのヒーローごっこが始まっており、まいの手中には押し付けられたフィギュアが。今日は一日この二人に付き合うことになるまいは、とりあえずヒーローごっことは何をすれば良いのだろうと必死に考えていた。


お家デート

END


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