本当にアイツは警戒心がなくて、上がり症のくせして優しさから会話に応じて、それで漬け込まれて流されて何でもされるんだ。だから海の時だって本気で心配してやったのに、またあの時みたいに、いやあの時以上に絡まれやがって。ナース服で涙目で上目遣いなんて男にとっちゃ誘ってるだけにしか見えねぇんだよ。

まあそんな本音言えるわけもなくて、むしろ普段から誘ってるようにしか見えねぇとか言ったら逃げるか怒るか泣くしかしねぇからとりあえず服を着替えさせた。さっきまでの出来事に反省してるのか黙って俺の後を付いてくるまいは、俺の裾を掴んでいた。自分からじゃなくて俺がそうしろって言ったからだ。

そうやっててきとうに食いもん買って、いつも通り屋上に来た。屋上は一般にも公開されてねぇから誰も居なくて、定位置の日陰の下に腰かける。隣にまいも腰かけた。
ナイロン袋から焼きそばとかを取り出してまいに渡すと、ありがとうと小さく礼を言われた。おう、と返事を返して、自分の焼きそばを食うと、まいも食べ出した。

俺が完食してしばらくすると、まいも完食する。食ってすぐに回る気にもなれねぇからだらだらしてたら、まいが裾を引っ張った。

「なんだよ」
『…あの、青峰くん』
「……」
『今日も、前の時も、守ってくれて…ありがとうございます』
「ああ」
『それと、ごめんなさい…だから、あの、機嫌、直してください…』
「は?」
『あ、おみねくん、さっきから、目見てくれてません』

それはたまたまなだけなんだけどな、とか思いながら、まいを見るとすげえ困った顔してて、そんなに俺が大切なのかよって少しだけ優越感。
頭を軽く撫でて、バカじゃねぇの、って笑ってやったら釣られてまいも笑う。

「おら、行くぞ」
『どこに…?』
「お化け屋敷」
『!?い、嫌です!』
「俺が行くって言ったら行くんだよ」

ずるずると引きずってお化け屋敷の列に並ぶ。飯時ですかすかだったからすんなり入れた。入った瞬間にべったり貼り付いてきたまいに俺はにやけてお化け屋敷とかどうでも良かった。

『う、うぅぅ…』
「おい、歩きにくいだろ」
『む、む、り』
「おっぱい当たってんぞ」
『……変態』

本音で変態って呆れられた。まいにしちゃ珍しい反応で、まあそれだけ余裕がないってことがわかった。手だけ繋いで回ると、横から手が出たり、上からマネキンが吊るされてきたり、こんにゃくだったり、後ろから追いかけて来たりいろいろだった。まいは叫ばずに逃げるだけだったから、悲鳴なんかは一切聞こえなかったんだろう、出てきた時に怖くなかったですか?とか受付の奴に聞かれて頭をぶんぶん振ってた。

『も、もう、私青峰くんの、言うこと、聞きません』
「そうかよ。次どこ行くか決めてあんの?」
『……』
「ねぇのかよ」
『あ、じゃああれで』

指差したのは普通の喫茶店だった。入るならウチのやつにしろよと思ったが、いろんなとこが回りたかったからまあ良いかと手を取って入店。
注文はジュースとケーキ、俺はアイス。運ばれてきたケーキは思った以上に甘ったるそうだった。

『いただきます』
「おう」

そう言ってフォークで一口分切り離し、刺して口に運ぶ。つうかこいつ、口小せえな。じっと見続けると、少し耳が赤くなって、次に顔が赤くなった。それから首傾げられて、最後に一口食べたいのかって聞かれたからアイス落としかけて一気に食べた。


「お前、そんなんだから絡まれるんだぞ」
『だって…青峰くんが、物欲しそうだった…から』
「マジかよ…」
『要らないなら、良いですけど』
「一口」
『どうぞ』
「あー」

あーと口を開けるとまいはどうして良いかわからないみたいな顔できょろきょろ周りを見渡してから、周りの視線に気が付いて恥ずかしくなって勢い良く俺の口にケーキを運んだ。喉に刺さったらどうしてくれんだ…とか言って脅そうかと思ったが、今までで一番甘ったるいケーキそんな気力も削がれ、俺たちは最終的に手を繋いで帰った。


よくある日の

何でもないできごと。

END


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