良くわからない逃走のあと、さつきさんに合宿を休むと言った。
私の様子が可笑しいとわかり、さつきさんに事情を聞かれ、とりあえず簡単に青峰くんと…とだけ言った。
そうしたら私は強制的に合宿に参加させられた。


どうしていつも


合宿が始められ、私たちはいつもとは違う特別なスケジュールで練習をしていた。さつきさんが組み立てたスケジュールは、やっぱり個人に適したものばかりで、その人の体力によってノルマが少しずつ異なっていた。
そして、青峰くんも合宿へ来た。私に話しかけようとして、こっちに向く瞬間が何よりも怖くて、目を無意識に逸らしてしまって、そうすると、青峰くんは何も言わないまま私の前を通り過ぎる。もしかしなくても、私は相当最低だ。

昼食は私が用意し、夜食は宿で取った。そして、宿の部屋は青峰くんたち部員が数部屋で分けられ、私たちマネージャーには一部屋与えられていた。そうなってしまえば、私と青峰くんは途中から会うことも出来ずに、変な距離感を引きずってしまっていた。

「ねえねえ、お風呂一緒に入ろうよ」
『お風呂…?』
「そ!温泉だよー」
『……』

そう話しかけてくれたのはもちろんさつきさんだった。だけど、私は生まれて一度も他人と一緒にお風呂に入ったことがなかった。他人とお風呂に入って、恥をかくのが怖いから。だから、今回も断って、深夜にも開いている温泉らしいので、その時間に入ることにした。


温泉から帰ってきたさつきさんが誠凛の人たちに挨拶をしてきた、と言った。話の内容だと、お互いに宣戦布告したそうで、青峰くんはケンカとかしてないかな、と心配になった。どうして、私は避けている人を心配しているんだろう。


『…そろそろ、お風呂行ってきます』
「あ、うん。行ってらっしゃーい」

温泉は、所謂貸切状態で、こんな時間に入る人なんて居ないとは思っていたけど、とても雰囲気があった。雰囲気というのは、怖い方のだ。
入ったのは良いものの、何かの音が聞こえる度に悲鳴を上げてしまって、何だか堪能するなんてことは出来そうもなかった。身体も全部洗い終え、温泉に浸かろうとすると、ガラッと出入り口の開く音がして、少し大きめの悲鳴を上げてしまった。

「……まいか?」
『あ、あおみ、ねくん…?』

一枚のしきり越しに聞こえた声は、青峰くんだった。それに安心して、数秒経つと、今度はしきり越しにお互い裸だと気付き、恥ずかしくなって温泉に浸かった。
お互いに確認はしたけれど、何も話すことがなくてそのまま黙っていた。微妙な空気が居心地悪くて、出ようかとも思ったけど、その時には青峰くんが話しかけていた。

「まい」
『な、なんですか?』
「あれ、忘れてもいいぞ」
『…あれって、何、ですか』
「好きだって言った。それでも、お前がそんなことなかったなら、忘れろ。こんな、微妙な関係、俺もお前も嫌だろ?」
『……』
「嫌なら前と一緒で良い。だから、避けるな。俺から逃げるな」

そう言った青峰くんの声は、温泉だから響いたのかどうかはわからなかったけれど、私が間違っていなければ、震えていた。青峰くんの方が辛くて悲しくて寂しいのに、私は涙を流していて、震えていて、勝手に口が動いていた。

『あ、お、みね…くん』
「……」
『おねがい、です』
「……」
『時間、をください、私に』
「ああ」
『私なりの答えを、ちゃんと、出します。もう逃げません』

ぐすぐすと泣く音が温泉に反響する。青峰くんが、お前が目の前に居たら慰めれるのにな、と言ったのが、頭にずっと響いている。


END


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