落ち着いた日々を過ごしていたまいは、あることについて考えていた。青峰が最近可笑しいのだ。何かあるごとに怒られて、心配されて、優しくされて、それにまいは戸惑う。なんだか青峰のそれは過保護にも見えて、だから無駄に期待をしてしまうのが怖かったのだ。一種の恋愛感情を抱いていることを、無意識に感じ取っているまいが、青峰に拒否されることを酷く恐れているのだ。
それでも部活には連れて行かなければならないし、青峰から離れるという選択肢はなかった。

『青峰くん』
「あ?なんだ?」
『部活、来てください。今日は特に』
「何でだよ」
『ウィンターカップ、近いんです。今度、合宿するので、その打ち合わせをしますから』
「合宿?」
『はい』

そう、桐皇学園はウィンターカップに向けて合宿を予定していた。それには青峰にも参加してもらわないといけない。いくらなんでも五ヶ月もサボられてはたまったものではない。さつきからも話はすると言われたが、一番効果がありそうなまいが先に言ってくれと頼まれて、青峰を誘ったまい。青峰は少しだけ考える素振りをして、まいを見る。

「行ってやってもいいぜ」
『ほんと、ですか?』
「本当だよ。その代わり、これからずっと俺を名前で呼べ」
『な、なんで…?』
「簡単なんだから良いだろ?」
『良くないですっ』

名前なんてもう呼ばないと決めていたまいにいきなりの提案。急すぎて断る勢いになったが、もしかしたら青峰くんはこれが目的で、名前なんてどうでも良いんじゃ…と考えた。

『い、いですよ。呼びます』
「じゃあ呼べよ」
『今です、か?』
「今に決まってんだろ」
『…だ、いきさん』

そう言った途端、腕を引かれたまいはそのまま倒れる。倒れた場所は青峰の腕の中で、きつく抱かれていると気付くまでに時間がかかった。それでも気付いてしまえば後は早く、まいは必死にもがく。


『あお、みねくんっ離して、ください!』
「うるせぇ」
『青峰くん…』
「名前だって言ってんだろ」
『…だ、大輝くん、離してくだ、さい』
「嫌だ」

ぎゅう、ときつくなる腕をどうしたら良いのかわからず、そのまま困惑するまい。腕の中は別に嫌ではなかった。それがまたまいを困らせる。青峰に要らない期待をしてしまっては駄目だと言い聞かせても、追い付かない。

『あ、の…』
「……まい」
『は、はい』
「逃げんなよ?」
『え…』
「好きだ」

その瞬間、まいの中で何かが弾け散った。それと同時に無意識に足は動き出す。今までにないくらいの力で、青峰を押し退けた。駆ける足はどこに向かっているかもわからないし、どうすれば止まるのかもわからない。それに、何で自分が泣いているのかも、わからない。それが嬉しさから来るものであることを、まいは知らない。


矛盾逃避行

END


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テーマ「人外ファンタジー」
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