やって来ました前日準備の日。みんなで力を合わせてお店の飾りつけや衣装チェック、食材管理に会計係の打ち合わせ、それとシフト時間の確認。
それが終わるともう五時を過ぎ、先に終わっていた青峰くんを迎えに行くために屋上へ。今日は明日のために部活も休みになっている。
そうして迎えに行ったのはまだ良かったのに、何でか今はそれが間違いかもしれないと思っている。

『…青峰くん、帰らないんですか?』
「んー、」
『寝てるのかなあ』

今の状況は私の膝に青峰くんの頭が乗っている。腰にがっちり腕が回されていて動こうにも動けない。そして寝息が聞こえてくる。

どうしてこうなったかと言うと、青峰くんがコンクリートの上で寝ていて、前にさつきさんがコンクリートの上で寝るのは身体には良くないと言っていたのを思い出して起こした。そうしたら、どう思ったのか、青峰くんが頭を膝に乗せてきた。退く気もなさそうだったから、頭を落とそうとしたら、俺は二回もしたと言われて、半ば強制的に膝枕をしている。

「……」
『寝汗かいてる』

まだ少し暑い十月、もう衣替えが始まり私はカーディガンを羽織っているけれど、もともと汗っかきな青峰くんには暑いのかも知れない。持っていたハンカチで少し拭くと、腕に力が入った気がした。

『青峰くん、退屈です』
「……」
『…大輝くん、とか』

呼んでみたりして…と続けて呟くと、また腕に力が入った。顔も膝に埋められた。やっぱり…と思いながらも、すぐに起こそうとはしない。いつもからからわれてるから、お返しのつもりで。

『大輝くん…』
「……」
『大輝くん、大輝くん』

膝にあたる髪の毛をさわさわと撫でながら連呼すると、肩が微妙に反応していた。何だか面白くて、調子に乗って名前を呼び続けた。

『大輝くん、大輝く、っ』
「さっきから、わざとかよ」
『…わざとじゃない、です。狸さん』
「わざとだな」

いきなり起きた青峰くんが、回していた腕に力を込めて私を横に押し倒した。頭を打たないように、頭の下に手を入れてくれていた。私の身体が高い位置にあって、青峰くんに見上げられる。それが少しだけ優越感を私に持たせる。

『青峰くんが小さい…』
「違ぇだろ」
『可愛いですよ』
「お前バカにしてるだろ」

拗ねた青峰くんを撫でるとまた拗ねたので、よしよしと口にすると今度は怒った。ごめんなさいと笑いながら言うと、青峰くんがあ、と声を上げた。

「お前何で俺の呼び方戻ってんだよ」
『え…?』
「さっきまで好き放題呼んでただろ」
『あ、あれは…ノリ、です』
「あ?ふざけんなよ」
『もう呼びませんん』
「もう一回言えよ」

からかうという目標がない今、青峰くんを大輝くんなんて呼べなくて、私は恥ずかしさからもう何がなんだかわからなくなって泣きかけた。泣くのは禁止な、と先に言われてしまって、禁止って何ですかそれ、と反論も出来なかった。

『だ…だ、』
「……」
『だ、いき…』
「おう」
『らいっ』
「あ!?てめぇ!」

起き上がって恥ずかしさを紛らわせるように青峰くんと追いかけっこをした。屋上で青峰くん相手になかなか捕まらなかったのは、青峰くんも本気で怒ってる訳じゃないからだと思う。

『あおみ、ねくん…も、疲れ、ました、』
「帰るか…」

汗をかくまで走り続けてもう空も暗くなっていた。青峰くんも私も、少しだけ休んで一緒に帰った。明日、一緒に学園祭を回ろうと約束して。


名前なんて呼べない

END


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テーマ「人外ファンタジー」
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