今日は青峰くんが先に帰ってしまったから、バスケを教わることも部活へ連れていくことも出来ずに、私は清掃作業をしていた。もうすぐ学園祭ということもあって、学園の掃除を入念にしろと言われていたからあまり汚れは見当たらないけど、それでも汗は滴ってしまうものだから、帰りにはバスケ部の一年生に紛れてモップもかける。

今は久しぶりに部室を隅々まで掃除していて、上から下に拭いていこうと思ったけど、ロッカーの上とかに大苦戦してとても終わるまで時間がかかった。

部員が部室で着替えをしている間にモップを先にかける。とは言っても、部活が終わって帰る一年生も居れば、部活が終わっても自主トレをする三年生も居るわけで、そんな時は一年生部員と一緒に使わないコートを綺麗にする。清掃をしている間、ギリギリまで自主トレをして帰る三年生と、自主トレをまだしたいから先に帰ってと言う三年生が居て、大抵はギリギリまで自主トレをして掃除は私たちに任せる人。その中に一人だけ、熱心な人が居るのをみんなは知っている。

「ワシしとくから、先帰り」

笑いながらそう言って、今吉さんはまた練習を続ける。桐皇の練習もそれなりに辛く、さつきさんがみんなの体調をチェックして無理なく無駄なく体力を減らされる、そんな練習メニューなのに、今吉さんはまた真剣に練習をするのだ。

最初は私も、みんなと一緒に帰って居たのだけれど、練習後の掃除は辛いし、一人だけでハーフコートは結構時間がかかるから、と思って一度残ってみたら、今吉さんは申し訳なさそうにしながらも嬉しそうだった。それから今吉さんの自主トレする回数も増えて、良く話すようになって、バスケ部で青峰くんの次に打ち解けているのは多分今吉さんだった。さつきさんも除いて、だけど。


「木下ちゃんも先帰ってええんやで」
『いえ…』
「今日、一日中頑張っとったんやろ」
『私は毎日じゃないけど…今吉さんは最近毎日、頑張ってるじゃないですか』
「せやなー」
『部員が頑張るのに、マネージャーが頑張らないなんて、可笑しいですから』

体育館の壁に背中を預けて座り、その隣に立ったまま休憩する今吉さん。座らないのは多分、座ったら暫く立てなくなるからだと思う。水分を流し込んで、息が整ったらまた練習をして、繰り返されるその行動が十回くらいされたら、今吉さんは満足して帰るのだ。

『今吉さん、そろそろ止めた方が、良いです』
「ん…そうしよか」
『私先に掃除、してますから…ちょっと休んでください』
「ワシもやる」
『休んでください』

じっと見つめると、今吉さんは苦笑を少ししてからじゃあ頼むで、と頭を軽く撫でた。はい、と大きく返事をして、モップをかけ始める。今吉さんが座って休憩している間に終わらせるように、と張り切って掃除をしていたら、すぐに今吉さんが立ち上がった。

「休憩お仕舞いや」
『…もう少し』
「ダメ」

モップを持って私の方まで歩いてきた今吉さんは、やっぱりまだ疲れていて、もう少し休憩して欲しいから、先に着替えを…と言ったらまた却下された。

「木下ちゃんの悪い癖や。一人で出来ることはあるけどな、一人ですることないんやで。むしろ、頑張りすぎや」
『…そんなこと、ないです』
「まあ、お互いに力出し合えばええんや。ほな、掃除続けるで」
『は、い』

こういう時、今吉さんは二歳しか変わらないのに大人だと思った。自分が疲れきっていても他人任せにならなくて、毎日一生懸命で、だから主将になったんだと、納得させられる。

『今吉さん』
「なんや?」
『私、今吉さんみたいになりたいです』

おこがましいですけど、と続けると、今吉さんは止めとき、と笑って見せた。こんな性格悪いやつ目標にしたらあかん、とも言われた。だけど、こんなに一生懸命練習が出来て、人に気が遣えて、人と分け隔てなく接する今吉さんが性格悪いだなんて、可笑しい話だ。それならよっぽど、私の方が悪い。

『今吉さんは、素敵な人ですから』
「…そんなん言われたん、初めてやで」
『じゃあ、私が一番最初に、今吉さんの魅力に、気付いたんですね』

笑って見せると、ありがとうな、と返された。今吉さんはいつもの表情より少し嬉しそうだったから、私も笑顔になった。きっと、今吉さんを目標にしてる人は、私だけじゃないけど。


もっと気付いて

END


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