ゆったりとした日々が過ぎる。今度はまた学園祭があるという話だが、一年生にはまだまだ実感がなく、話し合いだけをすることが続いた。
まいたちの出し物は劇、喫茶、お化け屋敷とまとまりのない意見が出たが、収入が良さそうな喫茶店にすることに決まった。少し違うのは、普通のコスチュームをしている店員と入店に付き一回挑戦できるじゃんけんで勝つと、指名した店員に店が用意したコスプレ衣装を着せることが出来る。女子だけではなく男子用のものも用意し、手本にコスプレ衣装を一、二着飾るという話になった。
『なんだか、個性的なお店になりそう…ですね』
「ま、稼げりゃいいじゃねぇか」
稼いだお金の儲け分はクラスで打ち上げに使えるらしい。それで、クラスの大半の人はやる気を出している。青峰も同様らしく、楽しそうに準備もしている。洋服はレンタルで服に合わせて数を決めることになった。残るは前日準備くらいで、今は部活に専念できる日々に戻った。
そして今日も青峰の憩いの場に、まいは駆けていく。屋上へ続く階段は暑く、とても長く感じられる。少し息を吐いて髪を整える。髪も手ぐしで整えて、万全にしてから、屋上の扉を開けた。『……あれ、』
いつもなら日陰に隠れている青峰が、今日は見当たらなかった。いつも屋上へ行く前に、下駄箱で確認をしているので、居ることは確かなのだが、屋上にはその姿を見付けることが出来ない。困って周りを見渡し、戻ろうかと振り返った時に、声が響く。
「まいーー!」
『あ、おみね、くん…?』
「下見ろ下!」
『した、』
下を見ると、そこには青い頭が見えた。屋上の柵越しに見る下には、プールがあった。水泳部は今、大会に行っていて丁度居ないことを思い出し、こういうことだけ抜け目がない、とまいは苦笑した。
「まいも来いよ!」
『…ばす、け』
「早くなー」
そう言われてしまえば、まいは駆けて階段を降りるしかなかった。コツコツと盛大に靴音を階段に響かせながら降り、靴を履き替えてプールの方向へ足を進める。
「早かったな」
『あ、お…みね、くん…』
「まあ涼んでけよ」
『……』
プールサイドに腰掛け、キレイな水に足を浸けていた青峰の隣に座る。どうしてかまいは青峰に誘われると、逆らえない。本当は無理にでも引っ張って行くべきなのかも知れないが、とまいも考えてはみるが、それでも連れていけないのは、前以上に青峰が自分の力に匹敵する相手が居ないことに絶望しているからなのかも知れない。
態度こそ変わらないものの、気紛れに部活に顔を出していた青峰を、誠凛との試合から一度も見ていないのだから。
『…青峰くん』
「んだよ」
『青峰くん』
はしゃぱしゃと青峰の足が音を奏でる。まいも釣られて、靴下をきれいに脱ぎ、畳んでからそっと足を浸けた。少し冷たい水が肌を浸食していく。波紋が無数に出来ていく。
『バスケは、好きですか…?』
「……」
『まだ好きで、好きで、たまらないですか?』
「……」
『青峰くん、私は、』
地べたに付いてあった青峰の手に、まいは自身の手を重ねた。まるで存在を確かめるようなその行為は、辿々しくぎこちない。ゆっくりと、拒否されることを恐れるように、まいの頭が青峰に寄り添う。
『バスケも、バスケが大好きな青峰くんも、大好きですよ』
そう静かに告げたあと、暫く二人は黙ってただ波紋を作っていた。
願わくはもっと
貴方のバスケを楽しむ顔を見せて。
END