線香花火が落ちるような早さで、まいたちの夏は終わってしまった。

空気はまだ暑く、それでも確実に日は短くなり、気温は徐々に下がっていく。それでもまだ暑いまま、急にこの日はやってきた。


「体育祭ってなんでこんなすぐにやるんだろうな」
『なんででしょうね…』
「じゃあ、頑張れよ、まい」
『あ、青峰くんも、頑張ってください』

そのままお互いに別れる。頭に付けられたハチマキは色違いのものだ。青峰は青、まいは白。お互い同じ団になることがあたりまえだと思っていたのだが、予想に反して団は別々だった。そのため、二人共少しやる気を無くしているのだが、励まし合い、怪我だけはしないよう祈った。

まいは運動が得意という訳でもなく、平均よりも大体下だったので、百メートル走と後は借り物競争くらいしか参加する競技がない。それに対し、青峰は運動神経だけがずば抜けて高いため、どこからも応援を呼ばれていた。しかし、青峰の性格からして全てを受ける訳がなく、今日もまいが居なかったらサボってしまおうと思っていた。

体育祭には付き物の、校長の長い話をきっかけに音と煙だけの花火が打ち上げられる。そうして、グラウンドは一気に賑やかになった。

赤、白、青の三色に別れるのが、桐皇学園の決まりだ。三色共に競うのは競技、応援で、マスコットという団に一つ作られる、団のイメージに合うものの出来映えは点数化された上で応援点に加算される。因みに赤白青共に無難な朱雀白虎青龍のマスコットを作り上げていた。
そのマスコットの横に、団員が整列する。壇上に上がり、互いの健闘を称え合い、そうしてやっと、競技が行われる。

百メートルは以外とすぐに終わってしまうもので、赤白青あまり点差も付かないまま終了。青峰は一位、まいは五位だった。
暫くは団員も少なく、生徒用に建てられたテントに日射しを凌ぎに来たまいは、見慣れた姿を見つける。

『さつきさんと、今吉さん』
「あっまいちゃん!」
「木下ちゃんも涼みに来たんか?」
『はい…暑いので』
「今日も暑いよね!まいちゃん肌白いんだから、日焼け気を付けてねー」
『さつきさんも、ですよ』

百メートル走が全て終了したころに、借り物競争の召集がかかる。さつきとまいは一緒に召集場所へと移動する。移動する前に今吉から、ワシも長距離出るから見といてやー、と言われた。そう言えば、と思い出す。青峰も長距離に出場するのだ。長距離は学年関係なく競い合う競技で、結構な盛り上がりを見せる。どちらも応援出来れば良いのだが、生憎さつきも今吉も赤団だ。どうしても、まいは青峰の方を応援してしまう。

「借り物競争楽しみだね」
『う、ん』

すぐに始まってしまった借り物競争。残念ながら、さつきと身長も会わず、一緒に競技に参加することが出来ないので、まいは緊張する。運はあまり良くない方のまいは、こういう一種の運も必要な競技は苦手なのだ。
それでも時間は止まらず、すぐに背の低いまいの番になってしまう。ヨーイ、ドンの合図で火薬が大きな音を放つ。驚いて足が滑り、まいは遅れてしまった。最後に残った札を捲ると、そこにはバスケ部と書かれている。自分ではマネージャーであるからダメだと判断したまいは、直ぐ様後ろを振り返り逆走した。女子の後ろに並ぶ青い頭をした彼を見つけるためだ。

『あ、おみね、くんっ』
「どうしたんだよ」
『こ…れ』

札を差し出し、青峰が理解して手を繋ぎ走り出す。敵の団員に連れられて走るまいはとても異様だ。まい自身もそう思ったのがいけなかったのか、気を逸らした瞬間に足を躓かせてしまった。青峰が逸早く腕を引いたのだが、思い切り膝を擦りむいてしまった。血が少しずつ溢れ出す。

『ご、めんなさ…青峰くん、急ぎ、ましょう』
「…ちょっと掴まってろよ」
『なに…っ、!!』

聞くより先に青峰はまいを抱えあげた。お姫様抱っこをされて悲鳴を上げかけるまいの口を塞ぎ、ゴールまで駆ける。そして、奇跡の一位を取った後、そのままの状態でまいは保健室まで運ばれた。生憎養護教諭は外に出ており、手当ても青峰がした。

『あの、ありがとうございます…青峰くんの番、来ちゃいますよ』
「そのままにしときゃなんとかなるだろ」
『……』
「俺は十分走ったから休ませろ」
『ちょっとだけ、です』
「おー」

そのままずるずると青峰に時間を引き延ばされ、結局午前の競技が終わるまで休んでいたまいは、さつきと合流し、三人で昼食を摂った。

応援合戦も終わり、後に残るは一部の生徒が参加する競技ばかりだった。騎馬戦や三年生のリレー、綱引き等が終わり、長距離がやってきた。一人千五百メートル走る競技で、スタート地点では今吉と青峰、複数の生徒がスタンバイしていた。
さつきと見ていたまいは、今吉と青峰の話をしてスタートを待った。ドンという乾いた音が鳴り響き、同時に走り出す人の中でも先頭を走っていたのは青峰だった。普段無気力ながらも、負けず嫌いが働いているのか真剣だ。僅差で追い詰めるのは今吉。あまり距離のない二人はどんどん他の参加者を引き離す。
長距離だというのに始めから飛ばしすぎなくらいに二人の足は速かった。グラウンドの関係上五週しなければならないのだが、あっという間に四週まで走ってしまった。
その時にはもう二人は横に並んでいた。声援を送るさつきは今吉を応援していた。まいも手を筒上にして声を張り上げる。

『青峰くんっ!!』

頑張れ、という前に走り去ってしまった青峰。しかし、青峰を呼んだとき、青峰が笑ったのを確かにまいは見ていた。ゴールの銃声が鳴る。ゴール前で待っていた審判の判決は青が一位だった。


*****


『終わっちゃいましたね…』
「そうだな」
『白、全然ダメでした』
「青もだけどな」
『…でも、楽しかった、です』

ひょっこひょっこと足を庇いながら歩くまいに合わせながら青峰は歩く。体育祭の結果は競技応援共に赤団が持っていってしまった。

『そういえば、長距離の時…声聞こえましたか?』
「おう」
『良かった』
「お前が声張り上げるなんて珍しいから、思わず本気出しちまった」
『…最初から本気で、走れば良いのに』
「疲れるだろ…」
『頑張る青峰くんは、とてもカッコいいんですから』

もっと頑張れば良いのに、と続くはずだった言葉は、あまりにも恥ずかしいことを言ってしまったと自覚したまいによって止められてしまった。体育祭の帰り道、普段より赤い顔が二つ並んでいた。


もう秋なんですね

END


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テーマ「人外ファンタジー」
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