さつきさんが家に押し掛けてきた。どうかしたんですか?と聞いたら声を張り上げられた。

「今日青峰くんとお祭り行くんでしょ!浴衣とかんざし選んで着付けてあげるから行くよー」
『えっ』
「どうかした?」
『青峰くんが言ってた、んですか?』
「いや、行くのかなぁって」

もしかして行かないの?と聞かれて私は頷いた。こんな炎天下が続く日でも私と青峰くんはバスケを教えてもらうという口実で会っては居たけど、曖昧には夏祭り行きたいという話はしたけど、はっきりとはまだちゃんとしていなかった。何でも、毎年さつきさんと一緒に行くらしくて、私が入っても良いのかな、という遠慮の部分もあった。そこを話したら別に全然良いのに!と叫ばれてしまった。

「こうなったら今日は大ちゃん誘うからね!」
『いきなり、ですか?』
「もちろんっ大丈夫、きーちゃんにもヘルプ出しとくから!」
『きー、ちゃん…?』
「さあ行くぞーっ」

そうしてさつきさんと一日中街の中を歩き回った。浴衣もかんざしも全て選んでくれて、青峰くんから途中電話が来たときにはとても怒っていた。怒鳴り声がここまで聞こえてきたけど、さつきさんがボソッと呟くと黙ってしまったから多分大丈夫?なのかな。

家に帰ったらすぐ着付けをされて、待ち合わせ場所を伝えられて、その場所まで歩いていった。

「遅ぇよ」
『……え、あっごめん、なさい』
「まあ別にいいけどよ」
『……』
「…行かねぇのかよ」
『…行きます』

青峰くんも私も何だか会話が続かなかった。青峰くんの理由はわからないけど、私の理由は青峰くんが浴衣を着ていたから。普段から一緒に居て、祭りでも浴衣を着なさそうだと思っていたのに、浴衣を着こなしていた青峰くんが余りにも、何だか、男の人だな、って思ったら緊張してしまった。

前を歩く青峰くんに付いていくと、人がどんどん増えていく。それに連れて夜店も増えて、夏のお祭りの雰囲気が増してくる。目新しいものはないのに、何でかきょろきょろと周りを見渡してしまう。それを見かねたのか、青峰くんが声をかけてきた。

「お前、人に流されんじゃねえぞ?」
『う、はい』
「…ここ、掴んどけ」
『あ、え』

出されたのは浴衣の裾で、でも浴衣の裾を持っていたら布が伸びないかな、とか悩んでいたら早くしろとか、青峰くんが急かすから、何だか私もおかしくなったのか、青峰くんの手を取った。そしたら思いっきり青峰くんが振り向くからびっくりしてすぐに離した。

「……」
『ご、め、んなさい…』
「あー…行くぞ。手、出せ」
『はい、』
「別に、嫌なわけじゃねぇから」

聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟かれた言葉に私が笑うと、青峰くんは迷子にならねぇようにだからな、と言ってきた。釘を刺された様な気分だったけれど、それでも嬉しくて、そのあとは金魚すくいをしたりダーツをしたりかき氷を食べたり。お世辞にも、青峰くんはダーツは上手くなかった。

『あ、あれ』
「んあ?」
『……』
「もしかして、あのストラップか?」
『あ、ち、違うんですっ』
「珍しいな、射的の景品がストラップって」
『あの…えっと』
「取ってやるよ」

屋台のおじさんに話しかける青峰くんに何回も遠慮しているのに青峰くんはそこで見てろと言って止める気配はなかった。
ストラップは代用の箱を落とすと貰えるようになっていて、辺りではなく三等賞と書かれていた。あんまり難しい訳でもないのかも知れないそれを、二発は後ろにずらすために使い、三発目で落としてしまった青峰くんは、そのまま残りの二発をお菓子に当てた。
青峰くんはおじさんにストラップを要求して、彼女さんにあげるのか、と茶化されていたけどあんまり否定はせずにストラップを受け取った。受け取ったお菓子ごとストラップをもらってしまったので、飴だけもらってもう一つは返した。あと、お金を返そうと要らないと突き返されてしまった。

もうちょっとで花火が始まると言われて河の近くに行くと、人がたくさん居た。青峰くんみたいな身長の人はあまり居なかったけれど、それでも酷い人混みの中ではぐれてしまわないかとても心配だった。ついでに花火も見えそうになかった。

「やっぱ見えねえか」
『多分…』
「じゃあ移動すっか」
『え?…はい』

手を引かれて移動したのはちょっとした高台で、隠れスポットにしては少し人が居たけれど、それでも十分だった。花火の響くような音が鳴って、夏を実感させてくれる。光る火の粉が落ちていく風景はなんだか、夏のようで、すぐに終わりが来てしまうような、そんな焦燥感に駆られる。知らず知らずに手を強く握っていたらしくて、青峰くんがまた強く握り返してくれたから、安心できた。


帰り道、屋台も仕舞うところがチラチラ見えた。そんな中、一つの屋台が見えて、私は青峰くんにちょっと待ってて、と言ってから駆けていった。
戻ると少し怒られた。どっか行くなら連れて行け、だそうだ。謝罪をしてから青峰くんの手を取って、手のひらにさっき買ってきたものを置いた。シンプルなストラップ。さっき射的で取ってもらったものと色も同じで青色のもの。これしかなかった。驚いた顔で私を見る青峰くん。

「これ、どうしたんだよ」
『屋台で…五百円で、売ってました』
「じゃあ、そこで買えば良かったな」
『…私は、青峰くんに取ってもらったの、嬉しかった…です』
「で、これもらっても良いのか?」
『あ、はい。何となく、買っちゃって…お揃いになってしまっても、良いなら……』

言っていて恥ずかしくなって俯いたら、青峰くんが何かをし出して、私の前に差し出した。ケータイと、それに付けられたストラップが輝いた。きれいな深い色の青が、青峰くんに似合っていると思った。

「嫌なわけねぇだろ。お前も付けろよ、せっかく取ってやったんだから」
『…はい』

そのまま、私のストラップもケータイに付けて、私たちは手を繋いで帰った。夏の暑さなんて全く感じないくらい、一日がとても楽しかった。




END


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