午前中良くないことばかりがあった私は荷物番を買って出た。さつきさんにも泳いでもらいたいし、何よりパーカー無しで動くのは恥ずかしかったから。荷物番ならタオルを肩にかけていても大丈夫だし、日に焼けたら赤くなる私には荷物番が一番最適だった。

しばらくしてから荷物番は眠いことに気が付いた。自分の荷物に寄りかかって寝ようかと思ったら、前から影がかかった。誰かが休憩しに来たのかと思ったら、知らない人二人組だった。

「ね、君暇なの?」
「こんな可愛い子置いとくなんて勿体ねー」
「俺たちとちょっとだけ遊ぼうよ」
『あ、の…私、行きません』
「えー?つれないなぁ」
「ちょっとだけだし、ね?」

腕を無理に掴まれて少し悲鳴を上げると、今度は二人組の態度が変わり少し乱暴な口調になる。せっかく誘ってやってんのに悲鳴かよ、早く来いよ、そう言ってぐいっと腕を引っ張られる。怖くて怖くて悲鳴も上げられなくなった。今まで関わってきた人はみんな優しくて忘れていたけれど、私は男性が苦手だったということを思い出した。二人組の顔を見るだけで泣きそうになる。
そんなときに、男性の一人が呻いた。
「うぜぇんだけど、どっか行けよ」
「ちょ、誰だよお前…」
「いってぇ!離せよてめぇ!」
「キャンキャン騒いでねぇで、どっか行けよ…俺の連れ泣かして逃がしてやんだから感謝しろ」
「はぁ?何言っちゃってんだこいつ」
「調子乗んな」
『あ、お…みね、くん…』

私の手を掴んでいた人の腕を青峰くんが掴んで解放された私は青峰くんの後ろに隠れてしがみついた。青峰くんは大して怖がった様子もなくて、安心できた。

「んだよ」
「シラケた、行こーぜ」

一応私が目当てだったらしい二人組は、私が青峰くんの後ろに隠れたら心が折れたのか、青峰くんがただ怖かったのかすごすごと帰っていった。

「…度胸ねぇ奴らだな」
『……』
「おい?」
『こ、わかった…っ』
「泣いてんのかよ」

泣き止めととりあえずシートに座らされ、抱え込むように慰められた。撫でられる背中からじわじわと暖められていく。

「落ち着いたか?」
『う、ん』
「ぶっさいくな顔してんぞ」
『元から、で、す』
「バーカ、笑ったら可愛いんだよ、お前は」
『は、ずかしいから…やめてくだ、さい』
「泣き止んだら泳ぎに行くぞ」
『は、い』


すぐに泣き止んだ私は青峰くんに手を引かれて海に泳ぎに行った。荷物は桜井くんがたまたま帰ってきたから任せてしまったけれど、桜井くんは快く引き受けてくれた。砂浜の方に居たさつきさんは私たちの姿を見て微笑んでいた。何故か母親を彷彿とさせる笑顔だった。

『青峰くん』
「あー?」
『私、泳げますよ』
「知ってるよ」
『…浮き輪要らないです』
「溺れかけてたやつは黙ってりゃ良いんだよ」
『見てたんなら、助けてくれれば、良かったのに』
「お前が他のやつに助けられるのが悪いんだよ」
『理不尽です…』
「じゃあ今度は俺から離れるなよ」

ぶすっと私がむくれると同じような顔をした青峰くんが浮き輪越しに見えた。私は青峰くんに助けて欲しかったし、青峰くんは私を助けたかったのかな…と思ったけどわざわざ他人を助けたいなんて人は居ないからただやり取りに拗ねただけなのかも知れない。浮き輪分高い私の視線は、青峰くんを見下ろしていて、青峰くんの頭ってこんな感じなんだな、っていろいろ知れた気がした。水をかけたり青峰くんの頭を撫でたりして、疲れた私たちが帰りの電車で肩を寄せてぐっすり寝るのを、みんなは見てみぬ振りをした。らしい。
水の思い出

END


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