八月に入ってすぐに、青峰くんは課題を終わらせてしまった。理由はちょっと課題の息抜きに話をしていた時、誠凛高校の偵察へ行ったときの話をしたら、いきなり海に行くぞ、と青峰くんが何故か気合いを入れたからだった。課題が終わるまで遊べませんよ、と私が言ったら終わればいいんだろ、と言って青峰くんが本格的に課題をし始めたのだ。本気の青峰くんは本当にすごく、スピードだけは早かった。その代わり紙の上は真っ赤だった。

そうして八月二日。有言実行の青峰くんに連れられて来たのは青いきれいな海だった。

「おーおー、キレーやなあ」
「大ちゃんにしては良い発案だね」
「青峰にしてはな」
「僕も来てしまってスミマセンっ」
『…あの』
「んだよ」
『何か、お、怒ってません…か?』
「何でもねーよ、気にすんな」

一緒に来たのはバスケ部レギュラーメンバーとさつきさんだった。青峰くんの課題が終わったという報告と、八月二日に休みが欲しいという私の要求にさつきさんの女の勘が働いた。すぐに根掘り葉掘り聞かれた上にみんなで行くという話にまで発展してしまって、青峰くんには電話で流れだけを話していた。

『でも、海には来れたんですから、良いですよね』
「まい」
『はい?』
「パーカー脱げよ」
『……嫌です』

誠凛高校のことがあってから水着がこの上なく恥ずかしかったので、今回は万全の対策をしてきた。水着用の短パンと上にパーカーを羽織り前を閉める。こうしてしまえばもう普通の服にしか見えない。足は少し恥ずかしいけど、水着より数倍ましだった。けど、それが青峰くんは不服らしい。さつきさんは前と同じくオープンだから何も言わないのかな、と少しだけ思った。

「何のために海に来たと思ってんだよ…」
『遊びに、ですよね。私はパラソルの方に居ますから』
「……」

とても不満なことを隠さない青峰くんに困っていると、誰かが肩に手を置いた。

「揉めとらんで、はよ遊びに行こうや」
「うるせぇよ」
「せっかく木下ちゃんの水着姿拝みに来たんやろ?」
『…?』

何のことですか?と聞きながら見上げると、んーと曖昧な返事と笑顔で誤魔化されてしまった。青峰くんを見るとさらに不機嫌になっていたから私はどうすればいいのかな、とずっと首を傾げていた。

「まい、行くぞ」
『は、はい…どこにですか?』「海の中」

言うが早いか手首をがっしり掴まれた。悲鳴を上げる前にぐんっと身体が引かれてそのまま走った。前にもこんなことがあったな、と思いながら、後ろを振り向くと今吉さんが何かを考え込んでいた。

『、青峰くんっ』
「あ!?」
『前、海…!』
「入るんだよ、お前も」

足を止めるより先に青峰くんの小脇に抱えられて海の中にダイブ。全身が水に包まれてびしょびしょになってしまった。すぐに顔を出す。足はまだ全然着く場所で、立ち上がると思った通りびしょびしょだった。前を見ると青峰くんもびしょびしょだった。そういえば、青峰くん上半身裸で、そんな人に抱えられてたことに気付いて恥ずかしくなって俯いた。

「これで脱ぐしかねぇな」
『な、んで…ですか?』
「水着、透けてんぞ」
『!?』

下を向くと自分なりに可愛いと思っているビギニのオレンジが透けたパーカーから見えていた。

「俺はそっちのがエロいと思うぜ」
『……』
「脱がねぇかどうかは任せるけど」
『あ、お、みねくんの、ばかっ』

恥ずかしさと怒りでもうそのまま海の中に入ってしまってどんどん沖へ泳ぐ。小学生の時にまあまあ泳ぎが上手かったから青峰くんも追い付けないはずだと思っていたけれど問題はそこじゃなかった。

服が重すぎて、少し高い波が来ただけで沈みかけてしまう。溺れかけ状態でどうしようもなくて結構な量の海水を飲んで咳き込んだ。苦しくてもう帰ろうとしたらがっしりとお腹を抱えられた。

『う…っ』
「溺れかけてへん?」
『え、い、今吉…さん!?』
「青峰や思た?残念やったなあ。…ちょお、このままでおってや」
『っわ』

今度は少しお姫様抱っこの様な体勢にされて、そのまま岸まで運ばれる。申し訳ない上に恥ずかしいし、緊張して身体がガチガチになってしまって、変な声さえ上げられなかった。でも、今吉さんが助けてくれなかったらどうなって居たのか、とかを考えたら今吉さんが居て本当に良かった。海で青峰くんとすれ違うときに、青峰くんが睨んでいて、さらに身体が緊張した。


足の着く浅瀬に来たら、今吉さんはすぐに降ろしてくれた。びしょびしょの服を見て何があったかを察した今吉さんは後から追いかけてきた青峰くんに少しだけ説教染みた言葉を言った。

『あの、今吉さん…ありがとうございます。すみませんでした、迂闊なことをして』
「ええて、結果が良かったんやから。大事にならんだだけでもオーケーや」
『…すみません』
「まあ、パーカー着とるんは駄目やな。泳ぐんなら桃井さんに渡してきいや」
『は、い…』

自分の考えのなさに落ち込みながらさつきさんのところに行くと、慌ててタオルを渡された。パーカーが透けていたことを思い出して、役目もないそれを脱いだ。

「…ねえ、お腹空いてない?」
『え、』
「もう1時過ぎちゃったから、二人だけで食べに行こう?」
『…はい』

そのまま二人で海の家に向かった。なんだか、今日はあんまり動かない方が良いみたいだから。


夏の虫

END


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