ピンポン、インターホンが来客を告げた。時刻は一時。まだ準備の整っていないまいは慌てて仕上げる。最後に鏡の前で確認してからドアを開けた。

『こん、にちは…』
「おう、おせーよ」

今日は勉強会初日だった。前から午前中は部活、午後は勉強と言っていたのだが、開始日が終業式の日からだったため、今日は部活をしていない。それでも毎日忠実にこなしているので仕事は然程溜まっていなかった。
午前中が終業式だったのにそのまま青峰の家に行かなかったのは、準備が整っていなかったからだ。それは口実で、何故か青峰の前ではちゃんとした格好をしたいという気持ちが働いたから、とは自分でも気付くことが出来ていない。

「じゃあ行くぞ」
『、はい』

わざわざ青峰がまいを迎えに来たのはさつきに言いつけられたからだ。それも口実で、最初から迎えに行くつもりでいた青峰には都合のいいことだった。さつきには不満を口にしていたけれど。

『課題は、どこまで終わったん、ですか?』
「やってねえよ」
『じゃあ、はやく終わるものから、やりましょう』
「んー」

そう言った世間話をして、青峰の家に行った。まいはまた何か失敗してしまうんじゃないかと不安だったが、同時に青峰の家に上がれることが少し嬉しかった。


『お邪魔、します』
「あっち座ってろ」
『はい』

以前と同じくテーブル前に促される。確か前も勉強を教えるために来た、と思い出し、まいは少し恥ずかしくなった。懐かしむように部屋を見渡すと、最初は緊張しすぎて気付かなかったが、ポスターが一枚ベッドの上に貼ってあった。書いてある文字が“堀北マイ”。前に言ってた人ってこの人だったんだ…とまいは見ているのも恥ずかしくなって俯いた。

「おら、飲め」
『あ、ありがとうございます』

漸く来た青峰は教材と二つのコップを持っており、一つをまいに渡した。中身はオレンジの液体で満たされてあった。青峰を見つめると、オレンジジュース、と何だか青峰に似つかわしくない単語が出てきた。その言葉にまいは納得し、もう一度お礼を言って口をつけた。思いの外喉が乾いていた。


まず何をしようか、と考え一通り課題を入れた鞄の中を見るまい。見たあとに漢字からが手軽だと思い、青峰に告げる。漢字なら範囲も狭い上に殆どが上に見本として書いてある漢字から問題が出題されるため、あまり頭を使わなくても出来る。

了承した青峰も感じのワークを取り出す。
暫く質問がなければ、自分も中途半端に進んだワークを進めようと、まいはシャーペンを握る。その様子を青峰は見つめた。

「……」
『…なんですか?』
「いや、落ち着いてんな」
『落ち着かなきゃ、また何かしちゃいそう、だったので…』
「ふーん」

つまらなそうに課題を進めていく青峰。普段とは違い素直な青峰に少し調子を崩されながらまいも課題を進めていく。実際は青峰もまいも初めてではないのに緊張していた。だから逆に自然に見えるかどうかを気にしすぎて普段とは違う態度になってしまっていた。

一時間程度が経過し、まだ大人しく課題をしていた青峰の方を少し覗いてみたまい。何ページ進んだだろうか、という気持ちは一気に崩されてしまう。

『あ、青峰くん…』
「……」
『ずっと、落書きしてたん…ですか?』
「……」

道理で消ゴムの消費が酷いハズだ、とまいは溜め息を吐いた。ワークには落書きの跡がぎっしりある。

『あ、』
「何だよ?」
『これ…』

まいが指差したのは周りに描いてある落書きとは違い何だか人の形をしている。髪の毛らしきものが長く少しウェーブしていて、目みたいなものから睫毛っぽいものが生えている。まあまあ特徴を捉えているそれ。

『もしかして、私ですか…?』
「よくわかったな」
『正直あんまり、わからないです』
「てめぇ…じゃあお前描いてみろよ」
『え?』
「元美術部の本気見せろよ」

ニヤニヤ笑う青峰に少しムッとしてわかりましたよ、と答えたまい。普段から持ち歩いているルーズリーフを取り出して新しい真っ白な紙に青峰を描こうとする。

『勉強、しててください』
「あー…ポーズ取ってやるよ」
『べ・ん・きょ・う』
「へいへい」

渋々ワークに向き直る青峰に安心しながらまいもシャーペンを紙の上で滑らせる。久しぶりに人の絵を描くから上手く描けるか心配だったが、問題はそっちではなかった。青峰を直視し続けることが難題だった。本人から言い出したことなのだから気にしなくても良いのだろうがどうしても見れない。見ていると頬が上気して赤くなってしまう感覚が確かに伝わってくる。もう思い出しながら描いた方がはやいかも知れない。

『青峰くん…』
「あ?」
『絵、家で描いてきます』
「何でだよ」
『それより、お腹空いてないですか?』
「あー…少しな」
『これ、どうぞ』

家で昨日作ったお菓子を差し出しながら話を逸らすことに成功したまいは、そのまま勉強をして一日をやり過ごした。


無意識意識

END


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