桜が咲き誇る季節、そこら中に満ち溢れる人、人、人。そんな中に小柄な少女が一人流されていた。
なかなか人の流れから脱する事が出来ない上に、平均身長の彼女は回りの現状すら把握することがままならず、新入生だというのに自分の教室は疎かまだ生徒玄関にも辿り着けていない有り様だった。


(ど、どうしよう……進めない。)

一人困っている木下だったが、校舎の位置だけは把握して何とかその方向へと進む。それだけでも途方の無い行為に思えて、木下は溜め息を吐いた。


木下まいの両親はとても過保護だった。それ故に小学中学共に女学校に通っていた。
本来ならば、エスカレート式で高校も女学校へと行く予定だったのだが、本人たっての希望もあり共学高校を選んだのだったが、朝から散々な目に合い、後悔の念がじわじわと出始める。

女学校へと進学していたら、場所も大体わかる上に知り合いばかりのクラスメイトだ。全く苦労する必要は無かったのに。



ようやく着いた生徒玄関ともすぐお別れをしなければならない時間帯だった。
さっさと受付を済ませて下駄箱に自身の靴を入れ、新しい内履きに履き替える。新品はとても履き心地が良い。それだけで少し気分は上昇した。


教室に着くと、教室の机が綺麗に一列ずつで男女交互になっていた。珍しい事に名前順では無いのか、座席はバラバラの様だ。
木下の席は右から二列目の後ろから三番目だった。悪くもない席に安心して座る。両隣が男子という事に緊張してしまうが、意識しないように前を向いた。木下の知り合いは居ないようだった。



簡単なHRを終わらせて各自で体育館前への移動を促される。これもまた珍しい事に、整列するのは体育館の下にあるスペースでだそうだ。
トイレに行っていた木下は完全に出遅れており、回りには人は居なかった。


『……体育館ってどこ?』


そこでHRの時に事前に配られていた生徒手帳を手に取る。生徒手帳があることに感謝しながらとぼとぼと目的地まで歩を進める。結構心細い、と上の空だったのがいけなかった。
曲がり角を右に曲がると急に壁が出来、木下はそれにぶつかってしまった。壁にしては堅くないと思って、ぶつけた鼻を擦りながら上を見上げると、そこには人が居た。

思わず悲鳴を上げそうになるも、木下は口を結んで声を飲み込んだ。目の前の男子は鋭い目をしていて、声を出そうものなら容赦なく叩いて来るのじゃないか、と男子に免疫が無いにしても行き過ぎな考えを巡らせたからである。
鋭い目に、短い髪、褐色の肌は木下の想像する“ヤンキー”に近かった。


「あ?」

そこでようやく、自身より小さな存在に気付いた男子はそちらへ目線を移す。見つめられた木下は蛇に睨まれた蛙状態だ。


「あ、悪ぃ。」
『……ぁ、い、いえ。』

案外想像していたより、相手の反応は素っ気なかった。時代遅れにも程があるが、「ぶつかったせいで骨折れてしまったやないか、金寄越せやワレェ」とでも言われるのか、内心ビクビクしていた木下は呆気に取られた。


「おい、お前さ。」
『は、はい…』
「体育館どこか知らねぇ?」


その一言に、木下は完全に警戒心を無くしたのである。



桜舞う4月の憂鬱に


見つけた良いこと


END


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