どうしてこうなった、と考えはじめて十分経過。未だ答えは出てきそうにない。それもこれも全部偶然なのだが、


『青峰くん…』
「んー」
『あーおーみーねーくーん』
「…んだよ」
『起きてください』
「うっせ、」

数分前にさつきに連れてきてと頼まれた青峰を起こしに来たまい。声をかけても起きないため揺すりながら声をかけた。それが余計だったのか、青峰は寝惚けてまいの腕を引いた。
そこから冒頭に戻る。まいは今青峰の腕の中にいた。片腕は頭の下に入れられており、コンクリートの上でもまだ痛みを感じないのだが、もう一方の腕はお腹回りに添えられており、身動きが取れない。取れないと言うのも、動くと青峰の腕に力が加わって動けなくなるのだ。

そうなって十分が経過してもまいは気絶しなかった。何故かと言うと、まいには青峰を部活へと連れていく使命があるからだ。もっと詳しく言うと、青峰を連れていくには結構の時間を費やすのだが、まいは三十分を過ぎると部活に戻る習慣がある。余りにも遅いとさつきが心配して、屋上まで様子を見に来てしまうのだ。

『あ、おみね、くん』
「……」『起きてくだ…さい』
「あと…いちねん」

一年って…、まいは困り果てた。まいの頭の下に腕が通されていることはとてもいいことなのだが、その腕がまいの頭を抱えるようになっており、距離が近いこともまいには問題だった。男性と触れたときの異常な羞恥心等ではない感情が、強く沸き立ってしまう。まい自身こんな感情は初めてだった。もっと触れて欲しいなんて、その感情事態を恥ずかしく思った。

『青峰くん、バスケしましょうよ』
『バスケが楽しいのなら、上手くなりたいのが当たり前なのに、それが嫌だなんて言わないでください』
『私は青峰くんのバスケ、好きですよ』

きっと青峰の本気のバスケ、バスケが大好きで大好きで仕方ない時の試合はとても格好よく、美しく、何よりも緊迫感があり、それであって楽しい試合なんだろうと思いを馳せる。どうしてバスケをしている時の青峰の顔は威圧感があって怖いのか、楽しむことももう無理だと諦めているのか、とまいは悲しくなる。青峰の寝顔をそっと指の腹で撫でる。思った以上にキレイな肌の上を滑ると、その手を掴まれた。

『っ!』
「……」
『あ、青峰くんっ起きてるなら部活!』
「もう少しだけ寝かせろ」
『でも…あの、』
「さつきが来たら見せとけよ」
『は、恥ずかしい、です。私は居なくても…』
「ダメ」

言い切ると青峰はまいのことをさっきより近くに引き寄せてまた眠った。さっきと違う部分はお腹回りに添えられていた腕が手に添えられていること。すぐにその場所から移動できるはずなのに、まいは動かなかった。お互いの膝が少し触れ合っている環境など、まいには耐え難いはずなのだが、この時はどうしてか冷静だった。
まいは青峰の寝顔を見ながら、何故平気なのかと考えた。青峰だから、というのもあるんだろう。それだけとは考えられないが。何故青峰と居ると安心するのかがわからない。何故ここまで青峰に入れ込んでしまったのかもわからない。

ずっと考えていても、わかりそうになかったまいは、とりあえず集中力が切れてから気付いた距離の近さを必死に誤魔化した。寝息がたまに首にかかって肩が跳ねても、まいは青峰の傍に居た。


起きてますよ

まいは知らない。青峰はずっと起きていたし、さつきが屋上に一度様子を見に来ていたことも。
END


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