誠凛との試合が終わった。誰も諦めなかった、全力で戦った誠凛に、青峰くんは本気を出し、そして誠凛は惨敗した。惨敗したという結果だけを見れば、やっぱり世の中は天才しか上に行けないだとか、現実を突き付けられてしまいそうになるけれど、でもやっぱりそれだけじゃないことは一目瞭然だった。
火神大我さんは、試合の途中で右足を酷使してベンチへ、光を失った黒子テツヤさんは、ミスディレクションも弱まり、絶望的だった誠凛。それでも火神大我さんの焼けるような闘争心は消えていなかったし、黒子テツヤさんは最後まで全力だった。他の人だって、ベンチに居る部員だって、監督さんも、力を抜きはしなかった。

青峰くんはそれが嬉しかったのかも知れないし、全力で挑んでくれた黒子テツヤさんに力を抜くことはなかったけれど、やっぱり対等に試合が出来ない苦しさに同時に辛かったのかも知れない。
それと、試合後の誠凛に対する罵倒は酷いものだった。


「秀徳倒したもんだからどんなもんかと思えば、特に黒子とか終盤全然クソだし。最後までムキになっててサブっとか思ったし」
「とっとと諦めりゃいいのに」
ガンッ
けたたましい音が耳を襲う。見てみると青峰くんが、胸ぐらを掴み上げてロッカーに押し付けている。

「試合も出てねーのにピーピーうるせーよ。耳障りだから少し黙れ」
「ぐぇ…」
「青峰何やってんだ。放せっ!」

大人しく離した青峰くんの顔は見えなかったけれど、相当気が立っていた。今は何もしてあげられない気がする。何かをしても、青峰くんが辛くなるだけな気がしてならない。何も出来ないのはいつものことだけど、今はそれがとてつもなく悔しかった。

「まいちゃん」
『…あ、の、私』
「荷物、片付けようか」
『はい』

苦笑したさつきさんが気を遣ってくれてる。さつきさんも落ち込んでいていいのに、私よりも青峰くんに思い入れがあるのに、申し訳無さが募っていく。

「ね、まいちゃん」
『はい?』
「私たちの学校は勝ったの」
『…はい』
「マネージャーが落ち込んじゃダメなの。部員の士気が下がっちゃうから、ね?」
『え…』

周りを見るとなんだか微妙な空気だった。勝ったのに、どうしてかみんな素直に喜んでいるようには見えない。見える表情は難しい顔ばかり。

「青峰くんのことも考えなきゃだけど、一番は部活全体。まいちゃん一人でも落ち込むと、みんなは喜べないの」
『ご、ごめんなさい』

マネージャーという仕事は上手くやっていたつもりだった。それでもやっぱり私は素人で、さらには知識も浅く気配りも半端だということがわかった。私は青峰くんの一ファンである以前に、部活のマネージャーだったんだ。

「木下ちゃん、大丈夫?」
『今吉さん…試合お疲れ様でした。私は別に、大丈夫ですよ』

笑顔を作る。バスケをする上でそれが必要なら、私は笑顔にならなくちゃいけない。いつか青峰くんが勝利を喜べるようになるまで。


A rude awakening

END


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