「じゃ、連れてきてね!きっと大ちゃんまだ寝てるから!」
会って開口一番に告げられた言葉をまいは理解が出来ないでいた。困りながら意味もなく手をさ迷わせてどうすればいいのか、とジェスチャーで周りに問いかけても返事はなかった。もう一度声の主であるさつきに向き直り、え?と首を傾げると、言葉をいくつか補って丁寧に教えてくれた。
「この前、青峰くんに啖呵切ってそのまま逃げて、午後の部活来なかったでしょ?だから、私の代わりに、ね?」
『あ…っ』
「ああ、謝罪はいいからなるべく早く、よろしくねっ」
『は、い!』
だっと駆け出すまいに微笑ましい視線を向けて送り出すさつき。周りから見るといびりにしか見えないのだが、さつきがそのような性格ではないことを周りは理解している。一応高校から試合会場まで、部員を揃えて行くことになっているので、大体は集まっているのだが、もうそろそろ出発しなければ間に合わない。青峰がすぐに来るとも限らないとわかっているので、今吉はさつきに声をかけた。
「そろそろ出発しようや」
「そうですね」
今吉に言われる少し前からケータイを扱っていたさつきは、パタンと閉じて今吉に向き直る。何しとってん?と尋ねると、先に行ってるって報告を…と言う辺り、わざわざあのタイミングで行かせたのは確信犯かと苦笑をしながら、召集して部員の注目を集める。
「そろそろ行こか」
*****
コンコン、コンコンと何かを叩く音で青峰は目を覚ます。訪問者か何かはわからないが、自分の睡眠を邪魔する存在を確認しに、寝間着のままよたよたと覚束ない足取りで玄関まで辿り着くとドアを開ける。
『おはよう、ございます…』
「……」
『あ、あの、今日…試合……』
「あぁ……はよ」
一瞬放心した青峰に挨拶をしたのは紛れもなくまいだった。近い記憶では急に激怒して居なくなってしまった彼女が、今では目の前で縮こまってこちらを見ている。とりあえず不自然ではない返事を返したが戸惑いは残る。
『出来ればはやく…着替えて準備を、』
「…なあ」
『な、なんでしょう…?』
「何でこの前、キレた後逃げた?」
押し黙るまいは言葉を選んでいる様だった。当分答えは出そうにないと思った青峰は、まいの腕を半ば強引に引っ張り部屋へと導き、逃げ道となるドアを閉ざす。えっと小さく鳴いたまいはまだ困っている様だ。
「何で言い逃げなんてすんだよ」
『……』
「自分の言ったことが正しいなら、堂々としてりゃあいいんだよ」
『すみません…でも、カッとなって怒ったの、初めてだったんです……』
言いながらまただ、とまいは思った。青峰と行動を共にするようになってから、まいはしたことのないことをたくさん体験してきた。良い方向でも悪い方向でも、多くを体験したまいは徐々に変化しつつあるのだと思った。
『あの、はやく着替え…』
「……わかったよ」
『じゃあ、私、外で待ってますね』
「見てっても良いぜ?」
『きっ』
冗談と共に上半身を露にした青峰を見て、まいは悲鳴を上げかけながら外へと急いで行った。残された青峰はいたずらっ子に似た笑顔で、ドアを見ていた。
変わること変わらないこと
END