思いっきり走ると視界が狭くなるのかもしれないと今日とても考えさせられた。

「大丈夫か?」
『ご、めんなさい…』

それは今に至るまで、全力疾走をしていた私が知らない男性に勢い良くぶつかって行ったことによって考えさせられたのだけれど、今はそんなことより謝罪が一番優先するべきなんだと思った。相手も上の空だったのか、戸惑ったように頭をかいて手を差し伸べてくれた。私は今地べたに座った状態だ。ありがたく手を取った。

『ありがとう…ござい、ます』
「いや。気を付けろよ」
『はい』
「じゃーな」

そこで漸く相手の顔を見た。大きな身体だとは思っていたが、身長がとても高い上に、髪の毛の色は赤。ギラギラと好戦的に見える目がとても印象的で、私は何度か見たことがあった。

『か、火神大我さんっ』
「あ?誰だよアンタ」
『あ、ご、ごめんな…さい』
「いや別に、」

いきなり名前を呼ばれて火神大我さんは怪訝そうに私を見たけど、謝罪をすると調子を崩されたみたいに眉間に皺を寄せて困った顔をした。もう一度心の中だけでごめんなさいと呟いた。

『私、桐皇学園バスケ部の…マネージャーで、木下まいです』
「…!」
『あ…の……』
「あ、あ…悪ぃ。で、何の用だよ」
『用とか、は、無いんです…けど』

ごめんなさいと本日何回目か知らない言葉を言ってから火神大我さんを見上げると、いよいよ訳がわからないと言ったように困惑した様子だった。

『用は、ないんですけど…今さっき私、青峰くんと、ケンカしてきた…ん、です』
「はあ?」
『こ、こんなこと言われても、困ると思うんですけど…』

黙ってしまった火神大我さんの分まで喋らなければと思うと、いつもより饒舌になれた。

『青峰くんは、自分自身を倒してくれる相手を求めてて、全力で戦える相手を探してて、でも、全力で戦うとみんな…心が折れてしまって……』
「…」
『わ、たし、青峰くんを倒す人は、倒せる可能性がある人は、居ると思ってるんです。それが、火神大我さんかどうかはわかりませんけど、でも、今実力で負けてたとしても、バスケは一対一じゃないから、』
「もういい」
『え……』
「勝っても負けても、実力差があってもなくても、もともと全力で行くつもりだったし、負けるの嫌いだからな」

やる気が目に見えるくらい、火神大我さんは挑戦的な笑顔になった。さっきまで、きっと実力差に絶望していたのに、精神的なものも、とっても強いんだと思った。

「アンタが心配するほど、俺たちは弱くねぇんだ」
『あ、ごめんなさい』

今度の謝罪は自然と笑顔になった。火神大我さんは、青峰くんにちょっと似てる。それが少しだけ嬉しかったり微妙だったり不思議な気持ちだった。

『あれ、そういえばここ、ストリートバスケの……まだ練習するんです、か?』
「ああ、」
『見てても、良いですか?邪魔はしないので……私素人です、し。あ、でも、左足無理させたらダメですよ…』
「何でそれ、知ってんだ」
『足、庇ってましたから』

右足に負担かかりますよ。そう言ってコート端にあるベンチに腰を下ろすと、火神大我さんはびっくりしていた表情をそのまま不思議そうな顔に変えながらボールを掴んだ。ボールを放る姿は、とても大きい。


ここにも見つけた眩い光

END


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