黒子テツヤと話始めたさつきに近寄ることも出来ず、まいはプールサイドに座って水を触っていた。現在プールを使用しているものは居らず、入る気にもならないのだ。バシャバシャと意味もなく水を触り手を冷やしていると、後ろから話しかけられる。

「あの…」
『は、はい?』

そこに居たのは相田リコ。誠凛バスケ部の監督だった。確か年上だったはずだ、と頭の記憶を頼りに思い出し、目上ならと振り向いて立ち上がる。

『な、なんでしょう…』
「貴女は桐皇で何をしているの?」
『バスケ部のマネージャーで、す』
「へえ、マネージャーが二人居るのね!」
『わ、私は、掃除や洗濯…あ、あとは試合の差し入れを作るくらい、しか…出来ません』
「……」

押し黙ったリコに何かおかしなことを言っただろうかと考えるまいだが、まいは当然のことしか言っていない。単にリコは、自分が料理下手なことを知っているため、普通に出来ると言われて尚且つ料理をそれしか出来ないと価値のないもののように言ったまいに焦っていた。女子としての力が負けている、と。

『あ、青峰くんを練習に連れて行く…のも、仕事、です』
「…青峰」
「まいちゃん、そろそろ帰ろう?」
『あっはい!』

呼ばれた方に滑らないよう走り、さつきと一緒に出入り口に向かった。リコはまだ話を聞きたかったらしいが、丁度さつきの声をかけた時間が、休憩の終わりだったため無理だったのだ。

「ごめんね、退屈だったでしょ?」
『いえ、大丈夫です』
「そっか〜、ごめんね」
『…黒子テツヤくんとは、話、出来ましたか…?』
「うん!それはもうっ」

嬉々として愛しの黒子を語るさつきの表情は、先ほどの悲し気な表情とは似ても似つかない。それが何だか、自分の見たものは嘘だったんじゃないのかと思わせる上で、現実味を帯びていく。さつきは青峰に対して過保護だ。幼馴染みという大きな存在からなのだろうが、それでも何かがまいの中で出来ていく。

「あ、うちの子をあんまり質問攻めしないでくださいねっ」
『え……?』
「詮索されてたんだよ?気付いてなかったでしょー」
『あ、う…ごめんなさい』
「気にしないで!もう行こう」

手を引かれて出口へと向かう。最後に誠凛のみなさんにさようならと挨拶をしたら、手を振ってもらえた。最後に黒子くんが、さつきさんに向かって青峰くんに勝つと言っていた。仲の良いチームなんだとすぐわかってしまう誠凛高校の人たちは、とてもいいチームだ。多分、聞こえてきた打倒青峰も夢ではないのだと思う。だって彼らは一生懸命に頑張っているのだから。


「ねえ、まいちゃん?」
『…え?』
「どうかしたの?さっきからずっと上の空」
『あ、え…と、少し、疲れたのかも……です』
「そっか!ごめんね付き合わせて」
『いえ!黒子くんがどんな人か、見れましたし…何だかいろいろ、良い経験に、なりました』
「それならよかった!テツくんかっこいいでしょ?でも、惚れたらまいちゃんでも容赦しないからねっ」
『は、はい…っ』

冗談混じりに言うさつきにまいは真面目に返す。世間話をしながら学校へと向かう。

「…あれ?なんださつきとまいじゃん」
『あ、』
「なんでいんだ、こんなとこ」
「ちょっ…!?それはこっちのセリフよ!今日練習でしょ!?」
『後から合流するって……』
「あー」

向かいからやって来た青峰に、さつきは焦りまいは困惑する。悪びれるでもなく、青峰は理由を話す。

「火神ってのと会ってきた」
「行くなって散々言ったじゃん!それにたぶん彼の足はまだ…」
「っせーなー、わってるよ。つか悲しいのは俺の方だぜ?」

これから少しは楽しめるかと思ったのに…と落胆を隠さない青峰はダルそうに語る。

「足の分差し引いてもありゃねーわ。テツの目も曇ったもんだぜ。アイツじゃテツの力を全て引き出せねぇ」


何でそうやって可能性を否定するのかが、わからなかった。
頭がカッと熱くなる。抑えきれないものが、一気に出てくる。

『あ、青峰くんはそうやって…』
「は?」
『そうやって否定するから…っ』
「あんだよ」
『何で希望を自分で潰すんですかっ』

溜まりに溜まった熱が放出された気がして、出てしまえば後に残るものは羞恥心しかなかった。恥ずかしさに負けて泣きそうになるけどぐっと堪える。私の本心を伝えただけで、泣いてはいけない。でも居た堪れなくなって咄嗟に反対方向に走ってしまった。どうしようどうしよう、この後部活があるのに。と焦りながら、全く止まる気にはなれなかった。


焼かれる心


(…何だよアイツ)
(大ちゃんのせいだよあれ)

END


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テーマ「人外ファンタジー」
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