部活に勤しむ休日。仕事も終わってしまったまいは練習の様子を体育館の端から見つめていた。青峰とのぎこちない関係も解決し、マネジメントの仕事も順調。何も言うことのない日々で、バスケのことも少しずつ学んでいる。
そんなまいの隣に、見慣れた人が並ぶ。同じマネージャーのさつきだ。良く見れば、何か荷物を持っている。そして何処かに出かける様子で、まいは尋ねてみた。

『どこかに偵察ですか…?』
「あ、うん。そうだよー」
『頑張ってくださいね』
「はーい」

さつきが偵察や情報収集専門なのは、マネージャーとしてバスケ部に入った時点で教えられていた。そしてさらに、彼女がどのような仕事をこなしているのかも、今までの試合時に確認してある。桃井さつきの計算力は異常だ。全てのデータを最大限に活用し、今までの成長データを算出した上でこれからの成長データを出す。さつきのデータはほとんど狂いはなく、そのデータを元に桐皇は勝ち進んできたのだ。

「あ、でもまいちゃんも一緒に行く?暇そうだし、ちょっとはめ外そうか」
『え?でも、邪魔じゃ…ないです、か?』
「大丈夫!今日は偵察って言うより話をしにいくだけだから!」
『はあ……?』

同伴者が出来たことにさつきは機嫌が良くなる。やはり、女子同士というのは用事が良いことだろうと悪いことだろうと気分を浮上させるようだ。体育館の出入り口に向かって歩き出したさつきの後を追ってまいも立ち上がる。

「あ、でも一つ、まいちゃんの家に取りに行かなきゃダメなんだけど」
『何ですか?』
「水着」
『え!』
「はい行こうかー」

まいが嫌がることを見越していたさつきががっしりと腕を掴んで引き摺る。まいは悲鳴を上げながら一時帰宅を強要された。

***


『ここって?』
「んふふ、中に入ったらわかるよー」

水着を持ってやってくる場所と言えば、場所は限られる。まいたちの前にはスポーツジムがあった。キレイな外装のそれに入ると、少し外が熱気を持っていたことがわかる。ヒヤリとした空気に気持ちよさを感じながら、さつきは手続きを済ませて更衣室へまいを連れていく。着替えてね(ハート)と可愛らしく言って個室へ押しやり、自分も個室へと入れば、後には何も言えなかった。


「…49!…50!」
「はい一分休憩ー」
「あ゛ーキッツイマジ!!」

ばしゃばしゃと水音が絶えないプール。その中に居たのは誠凛高校のバスケ部一同だった。休校日に特別に組んである練習をするべく、相田リコの父が所有するスポーツジムのプールへと来ていた彼らは普段同様キツイ練習をこなしていた。

「面白い練習してますねー」
「ブッ!!?」
「…!?どうしたキャプ…」
「って、おお!!?誰!?」

一斉に集中する視線の先にはさつきとまいが居た。水着姿にパーカーを羽織ったさつきはしゃがんでいる。その後ろに隠れているまいは水着にどんな意図があるのかわからずに急かされたので水着だけを着ていた。所在無さげにきょろきょろしていたが、どうすることも出来ずにさつきと誠凛高校の生徒たちの会話に集中することにした。
対して誠凛高校バスケ部一同は、いきなりの他校女子生徒の登場に色めき立つ。

「…桃井さん」
「知り合い!?」
「えっ…と、どちら様?」

よいしょ、と立ち上がり、尋ねたリコに向かい合う。正直まいもここに何をしに来たのかわからないので、何の関係があるのかを知りたかった。

「え〜と…なんて言えばいいのかなー?テツくんの彼女です」
「テツくん?」
「黒子テツヤくん」

そう発言した瞬間、周りから一斉に声が上がる。話でしか聞いたことのないまいはそんなに意外な人なのかな、と首を傾げたのだが、問い詰められて中学時代のマネージャーだと否定をした彼を見たら、失礼だが納得してしまった。
そこからさつきが黒子への気持ちを語るのだが、きっかけは微妙なもので周りも調子を崩されていく。

「桃井さん…やっぱり青峰くんの学校行ったんですか」
「…うん」

黒子の質問に、さつきの表情が一気に変わる。それを見て、まいはきゅっと手を握る。

「テツくんと一緒の学校に行きたかったのは本当だよ?…けど、アイツほっとくと、何しでかすか分かんないからさ…」

よくわからないもやもやした感情が胸を占めていく感覚を、まいはどこかで確かに感じていた。


無自覚な欲

END


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テーマ「人外ファンタジー」
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