図書館に青峰は居た。何となく授業を受ける気分にはなれなかったからだ。日差しの強い外では体育が行われており、掛け声や笑い声が室内にも響いてくる。
いつもならこの場で昼寝でもするのだが、青峰は考え事をしていた。まいのことだ。元来青峰は挙動不審ではっきりしないタイプは嫌いだ。そのタイプに当てはまるまいにここまで構うことは今までに一度もない。それに加えて、最近余計な感情までも出てきている気がした。余計なのだ、可愛いなどと感じるものは。
もしこれが恋の芽生えだとしたら、と思うと青峰は憂鬱になる。それはまいの性格から考えたらわかることで、もし青峰が告白をしたら、両想いなら良いだろうが片想いなら確実にまいは困るだろう。さらに困ったことに、避けられるか気を遣って付き合うことになる。確率的には避けられる方が高いだろう。まいは筋金入りの逃避スペシャリストだ。

ここまで考えて青峰も余分な感情を切り離せたら良いのだが、そう簡単に行かないのが青春というのか、全く気持ちは治まらない。どころかますます大きくなる。まいにはわかりにくい魅力があり、青峰はその魅力を見出だしてしまったのだ。初めはただ偶然にぶつかった相手だったのに。

「はー…」
『溜め息なんて珍しい、ですね』
「……」
『……?』
「いつから居たんだよ」
『ついさっきです』

次の授業、始まりますよ?と言ったのは他でもないまいだった。大方授業中見かけなかった青峰がサボっているのだと思い、連れ戻しに来たのだろう。事実青峰はサボっており、チャイムも聞こえないほど考え込んでいたのだが、それはまいには伝わらない。

「先戻れよ」
『嫌です』
「……」
『だ、って…青峰くん、先に行ったら絶対に、戻って来ないじゃない、ですか……』
「良くわかってんじゃねぇか」
『…だから、一緒に行きましょう?』

袖をくいくいと引っ張るまい。出会ったばかりの男子に免疫が全くないまいからは大分青峰に慣れてきているらしい。今の青峰には嬉しいやら鬱陶しいやらで困るのだが、やはり嬉しさが勝るところが憎い。

『授業、戻らないんですか…?』
「ああ、だからさっさと戻れって言ってんだろ?」
『……』
「……」
『青峰くんが、戻らないなら…私も居ます』

むっとした顔でまいは椅子に座り直す。どうやらむきになったようだ。こういうところは少し面倒だと思いながら、またもどこかで喜んでいる自分が嫌になる、と青峰は苛立つ。それでも相手に当たったりしないのは青峰にとって当然なのか、まいだからなのか。

キーンコーンカーンコーン。大きな授業開始のベルが鳴り響く図書館。まいはぽつりと呟く。サボり、二回とも青峰くんのせいなんですよ、と。


良い響き

END


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テーマ「人外ファンタジー」
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