青峰くんのことを知らなければいけないと思った。


頭の中を占めるもの

放課後のおサボりスポットは大抵屋上。屋上で寝るには暑いという日は図書室。または寮にさっさと帰ってくつろぐ。授業がダルかったら保健室で寝るし、短時間なら教室で寝る。彼はそういった人だ。
わかったことはたくさんある。知らないこともたくさんある。拒否されることもわりとある。それでも今日まで、考えてみたらまだ二ヶ月くらいしか経っていないけど、私と青峰くんは一緒に居た。
私はこれからも青峰くんと一緒に居たい。青峰くんはどうか知らないけど、それでも許される限り一緒に居たい。

屋上の影。壁に寄り掛かりながら目を瞑る青峰くんに、私は聞かなければならない。


『青峰くん、どうしてバスケをしないんですか…?』

最大限に勇気を振り絞って、聞かなければならない。

『嫌いじゃない、んでしょう?』

目を見て、はっきりと

『どうして自分から離れるんですか』
「うるせぇよ。俺は寝てんだ」
『聞かせて、ください…』
「嫌だ」
『聞かせて……くださ、い』
「…いい加減にしろよ」

閉じられていた目がギロリとまいを睨む。だがまいは引き下がらない。もう後回しには出来ない。こんな微妙な関係はごめんなのだ。

『青峰くんは、バスケが好きなんだって、そう聞きました』
「……」
『私は、最初見た時、無理してるように見えて…でも、バスケを教えてくれる青峰くんは、とても楽しそうで、』
「何でわざわざ踏み込むんだよ」

青峰は立ち上がってまいに迫る。きっといつものまいなら恥ずかしくて逃げるだろうが、今は動じずに青峰を見据える。

『青峰くんを知りたいんです。私は、あまり人と関わるのが、上手くはないですけど……青峰くんは、ずっと私に合わせてくれる。私を励ましたりも、してくれて、だから青峰くんに何も出来なくても、話しか出来なくても、知りたいんです』
「まい」
『わがままって言われても、知りたいんです』
「まい、わかった」
『あおみ、ねくんを…知りたい』
「……泣くなよ」

ぐすぐすと鼻を啜り涙を拭くまいは今まで青峰が見ていたまい以上にか弱い。罪悪感からか、青峰がまいを抱き寄せて背中を擦っても、まいは依然として泣き止まず、気絶もしない。

『自分が、こ、んなに…わ、わがままだ、って、はじめてしりまし、た』
「そうだな、わがままだ」
『…ごめんな、さい』
「いっつも俺がわがまま言ってんだし、たまにはわがまま聞いてやるよ」


言いながら青峰はまいにだけは今まで合わせてやっていると感じた。それは何故なのか、自身でもわからない。それでも合わせてやるだけ、まいに存在価値を見出だしていることだけは何となくわかる。青峰にとってまいはさつきなどと同じく、もうすでに唯一無二の存在なのだ。

「俺がバスケから離れる理由教えてやるよ。よく聞いとけ」
『はい』


それから青峰が語ることをまいは聞き漏らさないよう真剣に向かい合う。語られる言葉は想像と大差はなく、それでも言葉の持つ温度はこれ以上ないくらいに低い。青峰の目は何処と無く諦めていた。当然の摂理なのだと語るように、それでも嫌いでは無いのだと、そう言った青峰にまいは隠しながらまた静かに泣いた。青峰を苦しめる現実は、大抵の者では打ち砕けないのだ。

静かに頭を垂れ、まいは礼を言う。同情によく似た感情は沸き立つが、それでも言葉にはしない。青峰を惨めにしないために、青峰さえもが捨てた希望を無くさないためにも。


『青峰くん、それでもやっぱり、青峰くんを越える人は現れます』
「そうかよ」
『越えれなくても、青峰くんに点差を百点付けられたとしても諦めない人は居ます』
「そうかもな」
『私は…バスケに真剣に取り組まない青峰くんを倒す人は、すぐ現れると思ってます』
「…見くびんなよ」
『見くびってなんかいません。頑張らない人が倒されるのは当たり前です。でも、倒された青峰くんは誰よりも強くなると思うんです。それで、一生懸命にやって楽しかったら、青峰くんの苦悩も無くなります』

ね?と同意を求めるまいの顔は、ふざけた意見とは対照的に少し真剣だった。青峰は小さくサンキュ、としか返すことができなかった。


END


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