他校よりはやいテストも終わり、学生たちは部活動を開始する。もちろんそれはまいの所属するバスケ部でも同じく、さらにインターハイに向けて全力で臨んでいる。

因みに何校かと練習試合を組んだものの、全てに青峰は不参加だった。見に来ることもせずに、ただ欠席を重ねるばかり。
まいも最初は連れていく努力をしたものの、上手く言いくるめられる上に、選手たちへの差し入れに作った蜂蜜レモンにまで手を出されかけたので用意に迎えに行くことが出来なくなり、仕方無く青峰にはノータッチということになった。

そんなエース不在の桐皇学園でも、バスケの力はすごい。練習に明け暮れる毎日は同じでも、それ以上に彼らのセンス、体力、そしてさつきから与えられるデータ、その選手たちを統べる主将今吉の力量。名があまり売れていない為、対戦相手もデータ不足だったことも要因だろう。

そんな中、まいは部活帰りに青峰の特訓を受ける。部活にこそ来ていないものの、屋上で暇を潰した青峰は、帰宅するまいを見ては屋上から声を掛けて一緒に帰るようになっていた。理由はまあ色々あり、まいに特訓を頼まれたことと、一人で帰るより暇潰しになること、もう一つは、夜道は危険だという気遣いからだ。
因みに学校の寮と言っても青峰の学園の寮は、学園から徒歩十分範囲に設けられており、さらに十五分弱歩いたところにまいの家がある。その寮とまいの自宅の中間辺りにストリートバスケ用のコートがあるので、何気にまいは恵まれた環境にある。

『青峰くん、私って上達、してるんですか…?』
「あー、してんじゃね?リングに当たりもしなかったのに、入るようになったじゃねえか」
『……』

むぅ、とまいはむくれる。確かに青峰よりは劣るかも知れないが、そんな言い方は無いだろうと言うように細めた目で睨む。実際には悄気た小学生の様な愛嬌しか放っていない相手に、青峰は意地の悪い笑いを溢してしまう。

「冗談だよ。まあ一般人以下だったからな、成長はしてると思うぜ。十発六中。上々じゃねえか」
『百発百中が良いんです』
「欲張りだな…」

今度こそ苦笑を漏らす青峰に、しかし意地でも百発百中まで頑張るとまいは意気込む。青峰は試合中、ディフェンスが無ければ多分百発百中なのだろう。バスケ部のみんなも。それなのに私はディフェンスの無い空間で二分の一しか入らない。そんな情けなさがまいにはあった。マネージャーだからといってバスケが出来なければいけない訳では無いが、出来た方が何かと選手の訴えんとすることがわかるだろう。何より痛めやすい部分や負担のかかる箇所を押さえることで、応急処置などに活かせると思っていたまいに、今はシュートしか出来ないのが悲しかった。


『青峰くんは、』
「あ?」
『もっと上達したい…って、思いません、か?』
「……」

黙り込んだ青峰の表情を見たとき、まいは後悔する。決して踏み入ってはならない場所が他人にはあり、まだまいが入ってはいけない部分だと自覚したのだ。

「昔はな」
『そ、か…』
「小学生の頃なんか、がむしゃらに頑張った」
『甲斐甲斐しいんだ、ね』
「…こんなに上手くならなくても良かったんだ。楽しけりゃ十分だった」

練習をサボる決定的な理由をまいは目の当たりにした。ポツリと呟かれた言葉は余りにも寂しげで、声も出なかった。悲しさを孕んだ瞳が訴える。過去に何があったのか、まいは知らなさすぎるのだろう。
ただ一つわかることは、彼が望んだものは並の力だった。ということ。
つまらなさそうな目をした奥に仕舞い込んである高揚をいつも隠しきれないくせに、そのくせコートに立つと途端に冷めてしまう、その原因は圧倒的強さだ。

『あ、おみねくん』
「…?」
『自惚れは、だめ、です』
「事実だっつの」
『で、でも、思い込みは良く、ないですよ。きっと、あ、青峰くんが、頑張って頑張って、それでも手の届かない人が、現れる…はず、です』
「……」
『い、居なかったとしたら、私が、青峰くんより頑張って、上手くなります』
「……ふ、はははは!!お、お前…っ」

息を短く吐き出した青峰は盛大に笑いだした。腹を抱えて笑うような姿は見たことがなく、まいは困惑気味に名前を呼ぶことしか出来ない。

「ははっお前サイコーだな!…はー腹いてえ」
『……』
「ありがとなまい」

そう言っておきながら何で気持ちが籠ってないの。とは言えず、まいは黙り込む。二人の間にはまだまだ隔たりがあるようだ。


ふたりのあいだ

END


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