静かな空間でまいは目を覚ます。朧気に目に映るのは高い天井。夢見心地に暫くぼうっと薄目を開けていると、誰かの声が遠くからする。まだ夢を見ているのか、とまいは思った。眠る前の記憶がないからだ。
それでもこれは夢ではない。酷いデジャヴというもので、まいは青峰の膝の上に頭を乗せ、すやすやと先程まで寝ていた。青峰は青峰で、まいが寝ている間にさつきに事情を説明し、エロ峰!!と散々罵られ、結局また膝枕で様子見を言い付けられてしまっていた。
「おい、起きろ」
『…ん』
「また寝ようとすんなよおい」
『ねむい』
「……」
不本意だが寝惚けているまいは普通の態度だ。むしろいつもより態度が砕けている。今のうちに手っ取り早く謝罪を済ませてしまおうか、と青峰が口を開く前に、まいが行動に出る。
寝返りを打ったかと思うと、顔を青峰の膝に埋めるまい。本人の中では枕だったのだが、この様子は端から見たらとても怪しい。かたい、と漏らすと、まいはまた寝返りを打つ。
「……寝惚けすぎだろ」
『…すー』
「だから、寝んなっつってんだろ」
『ぅ、』
そこでやっと、まいの視線は青峰に向かうのだが、現実逃避のスペジャリストまいはその青峰も夢の見せた幻として片付けてしまう。
『……』
「昨日の、そんなショックだったかよ」
『…ん』
「悪かったな」
手を頬に添えてしっかりとこっちを向かせる青峰。まいは意外と真剣な顔をしている青峰に、目を覚ます様子もなく。
『きもちいい…』
と、添えられた手を自分の手に取って頬を擦り寄せ、緩んだ笑顔を見せる。
マネージャーとしての仕事をこなしながらその様子を見ていたさつきは、やはり私もテツくんとあんなことしたいなー。と羨ましがるだけだ。
所在が無くなった青峰は青峰らしくなく困惑しており、とりあえず本気で起こそうと思い、体に手を伸ばす。そのまま抱き起こし、ガクガクと乱暴に揺する。
「起きろっつの」
『!?』
いきなりの振動に最初まいは地震と錯覚するが、肩に掛かる圧が違うことを伝える。夢から引っ張り出されたまいは、目の前に居る人物に顔を赤く、さらに青くさせた。
『ひっ!』
「人の顔見て悲鳴かよ」
『か、かっ肩!かたっ』
「あ?」
混乱したまいは単語しか発することが出来ない。肩と言われて意図が取れない青峰は、どうした?と尋ねながらぽんぽん、とまいの肩を叩くことしかしない。まいの離してという願望は叶わない。
「昨日の、悪かった」
『うう…っ』
「冗談だって言って終わるつもりだったんだけどよ」
『…青峰くんの、』
「の?」
『スケベっ』
「……」
『へ、へんたいっ』
「おい」
『いつか、婦女暴行で捕まりますよ』
「捕まらねえよバカ」
何となく、調子を崩された青峰も、顔の青みが消えたまいを見ると苦笑混じりに笑顔になる。まいはこんな罵倒などしたことがないと、恥ずかしい気持ちになりながらも、青峰とこういう打ち解けた会話(だとまいが思っているだけなのだが)が出来たことを嬉しく思っている。
ケンカが終わったのか、と巻き込まれていた周りに安堵の溜め息が漏れた。
くだらない話
END