現在時刻午後4時半を過ぎた辺り。場所は寮の一室で青峰の部屋だ。ついでに、青峰の部屋は人数が足りなく一人部屋であった。普通は三年生に一人部屋が割り当てられ、それ以外が部屋を四人で共有するのだが、問題児でありキセキの世代と謳われた青峰は何故か待遇が良く、一人部屋を獲得することが出来たのだ。

そしてまいはパニック状態に陥る。


『あ、あ、青峰くんっき、今日はどの勉強する、…するんです、か?』
「あー…まずは数学か」
『すうが…くですか!公式をお覚えればだ大体、いけ…ますよ』
「さっきから変に緊張してんな」
『うあ、な、なんでもないですっ』
「……」

実のところ青峰は一ヶ月程度付き合ってきて、まいが男というものに極端に免疫が無いことを知っていた。知っていて反応を楽しんでいた時期もあったのだが、最近は自分だけに慣れてきたのかと思っていたのだが、どうやら違うようだということを確認した。

「いい加減、俺には慣れとけよ…」
『だ、だって…部屋、ですもんっ』
「…」

まいの反応に少しずつ苛立ちが募る。その理由を考えてはみるが、何と無くわかることは、まいと馴染んでいる男は自分だけだと自負していたのに、それが違っていたことを理解させられたからだ。青峰の不機嫌さは目にも見て取れる程だった。


『あ、あおみね…くん』
「……」
『落ち着いて教え、ますから…ごめん、なさい』
「……」
『………怒ってます、か?』
「別に」

盛大に溜め息を吐いて青峰は気持ちを切り替える。怯えるまいを見ていて、気分が良くなるわけがないのだ。
しかしまいは相当怒っているのだと認識してさらにびくつく。
それが青峰の加虐心をくすぐった。

「何に怒ってるか、わかるか?」
『う、うるさかったから…?』
「違えよ」
『え、うっ』
「……まあ」
『な、なんです、か』
「大人しくしてれば許してやるよ」
『?……うあっ』


まいの長い髪が床に広がる。天井を背景に青峰は不敵に笑う。まいの視界も九十度傾き、天井を仰ぐ体勢になっていたのだが、天井は見えない。見えないどころの騒ぎではなく、早急にまいの脳は右か左かとりあえず視線の先を変えろと指令を送りながら、体を起こせ、声を出せ、その他さまざまな事が飛び交って、終いにはショート寸前である。

『あ、あああっ青峰くん!』
「何だよ」
『これなななななな、なっなんですか!?』
「襲ってるんだよ。わかれ」
『う、よいて…くださ、』
「大人しくしねえと許してやらねえ」
『……』

唖然とした顔で見上げるまいの顔は限界まで赤く染まっている。それに満足した青峰は最後にからかってやろうと体を近付けた。

『……ん、』
「あ?」
『あ……みね、んは』
「何だよ」
『バカですかっ』

バスンッと音に反して軽い衝撃が頭に来る。青峰は唖然とした後、その衝撃がまいの手にあるクッションによってだとわかり、さらにまいが怒っているのだと気付く。

『こ、こんなこと、するのは…大切な人じゃないと!』
「……」
『だめ、何ですよ…!』
「…………」
『あ、青峰くん、聞いてます…か?』


怒っていた顔がどんどん不安げな顔に変わっていく。その様が何とも言えなかった。堪えていたものが溢れ出す。

「……お前さ」
『な、何ですか…』
「本当に可愛いな」
『うひゃっ』

半身を下から抜け出していたまいの体に青峰はのし掛かる。丁度腹の部分に顔が埋もれるようになって、まいはそれがくすぐったい。構わず体重をかけると、まいは羞恥心に訳のわからない声を出し続ける。まいは純粋に気まずかった。

「いじめ甲斐がある」
『!あ、青峰くん!!』

青峰の一言に羞恥心と怒りで赤くなったまいを、今度は擽ってからかおうと手を伸ばした。



trick


END


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