まいははあ、と息を吐いた。季節は春中旬に差し掛かる五月始まり。新学期から部活へ全力を注いでいたまいにとっては憂鬱な時期。テストが迫ってきているのだ。

もちろん、テストを受けるのも多少憂鬱なのだが、そちらよりもまず部活動が無くなることが、まいにとっては苦痛だった。いつも放課後はマネジメントに専念し、部員への差し入れを考え、さらに帰りには青峰のバスケ指導があったのだが…

『はぁ』

そこまで考え再度溜め息を吐き、青峰に視線を移すまい。悩みの種はどうやら彼のようだ。


「辛気臭え」
『…うう』
「テストくらい大丈夫だろ」
『テストは、別に、大丈夫ですよ』
「へー」


まいが何に落ち込んで居るかも知らずに、青峰は青峰なりに励まそうとする。それが逆効果だと気付くのはいつになるのだろうか。

まいの落ち込んでいる理由は率直に青峰のバスケ指導が無くなるから、だった。そこに他意があるのかどうかはまいしか知らないが、まいは青峰のバスケを楽しんでいる姿が好きで、それが見れないことは素直に残念なのだ。
別に部活のある日にする、という決まりは特に無かったが、何となく、お願いをするには図々しいという感情が前に出てしまって、テスト期間は誘ってはいけないと、まいは無意識に遠慮していたのだ。だから、その我慢が溜め息と変わって放出されていく。不満は消えず、まいの中でぐるぐる回ったままだが。


そんなまいに見かねたのはさつきであった。

「青峰くん」
「あ?」
「私ノート貸してあげられなくなったから、まいちゃんに勉強見てもらってね」
「はあ?ちょっとコンビニ行ってコピーすりゃあいいだろ」
「残念ながら、全教科のノート貸しちゃったの!諦めてちゃんと勉強しなさい」
「絶対嘘だろ!」
「私のノートだから貸す貸さないは私が決めるの。今日は貸さない!」


そう言い切ってさつきはさっさと帰ってしまった。帰りに教室に乗り込んで来たかと思えば、ノートを貸さない宣言をし、まいにだけ聞こえるようにあることを耳打ちし、且つまいも巻き込み帰っていく。嵐の様だ、という感想が教室中に広まった頃に、青峰は頭を乱暴に掻きむしり溜め息を吐いた。

「しゃーねー。まい、ノート貸せよ」
『えっ』
「ノート、貸せよ。コピーするだけだからよ」
『……』

さつきの狙いは青峰の部屋に二人きりというシチュエーションでまいを元気付けようとしたのだが、思惑通りには行かないもので、青峰の手がノートを要求する。
まいは予想外の展開に付いていけない上に、男子への免疫が無いため、ノートを貸すことが純粋に戸惑われた。理由は字が汚いとか恥ずかしいとかそんなありきたりなものだ。

『そ、それだけは勘弁してくださいっ』
「ああ?何だよケチ臭ぇ」
『ごめんなさいいい』
「じゃあその分勉強教えろ」
『え?』
「勉強、教えろよ」

素直に教えたところで青峰が真面目に取り組まないことは明白であったが、まいは一瞬迷う。そして、先ほどさつきから耳打ちをされていたことを思い出す。

【大ちゃん毎回赤点だから】

その一言が頭をよぎれば、返事はもう一つしかない。


『未熟者ですが……』

まいは項垂れた。


君の言いなり

END


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