日が暮れにも暮れた部活終わり。まいと青峰は一緒にいた。
クッキーで釣られた青峰が部活の見学に来た以外は特に変わったこともなく、強いてあげるとするならば女子の手作りが美味しいものだと再確認し出したバスケ部員のまいへの尊敬度がやや上昇したくらいなものだった。

結局のところ、見ているだけだった青峰にまいは大分意気消沈である。青峰のバスケットプレイに魅了されているまいは、少しでも青峰の自由奔放なプレイを拝みたかったのだ。
バスケの練習を見たら、バスケが大好きだと思っているなら少しでもやりたくなるのでは…と期待もしたのだが、青峰は立つ気配すら見せなかったので、やはりあの時は無理をさせていたのではと思い返しては落ち込んでいったのだ。


『…青峰くん』
「何だよ」
『家まで送ってもらって申し訳ないのですが、少し寄りたい所がありまして』
「近くか?」
『ああ、それは大丈夫です。歩いて一、二分ですから』
「じゃあ着いてく」
『すみません』


こうしてまいが送って貰っているのも、さつきの配慮であった。
可愛いまいを一人で帰すのは少し不安だという理由で青峰に送っていくよう発言してくれたのだ。
その理由はといっても、まいと青峰が初めてバスケ部にやって来た時の誤解がまだ若干解けていないことからなのだが、本人たちは知るよしもない。


『あ、ここです』
「……」
『見ていたらしたくなっちゃって…』
「……」
『すみません、ちょっとだけ、付き合って貰えますか…?』


着いたのは管理者は常に居るわけではなく、予約も要らず、その場に居合わせた者同士で譲り合って使う事を前提とされたバスケットコートだった。
柵についている扉を開けて、返事を聞かずに中に入る。あいにくボールは持ち合わせて居なかったのだが、コートの中に一つボールが置いてあったのでまいはそれを拝借した。ボールは大分使われていたのか、側面が削れている。

コート内になかなか来ない青峰を諦めて、まいはシュートを放つ。


『あ、』

ボテッとリングに掠りもせず、ボールは無様に落ちてしまった。少しの羞恥心に、ボールを取りに行くまいの足は小走りになる。

もう一度放つと、今度はリングに当たり、跳ねてしまった。いい線だ。と自分で励ましながら、もう一度放とうとすると、上からボールを押さえられる。


『あ、青峰くん…』
「フォームはこう。左手を添えて、ちゃんと固定しろ。でこの上ぐらいに構えて、あのボードの黒い枠に投げれ」

そう言って一度ボールをまいから奪い放って入れて見せる。
放物線を描くボールは黒い枠の中心に当たり、そのままリングに入っていった。


「ほら、投げてみろよ」
『あ、はい』

ゴール下まで行ってボールを拾い、緩いパスをまいに。手加減をしてくれたことに少し嬉しくなり、キャッチしたボールで顔を隠してにやけるまいはどうやら幸せの沸点が低いようだ。

そのまま両手で持っていたボールを先ほどの青峰と同じように構える。青峰は黙ってみている。
黒い枠に向けて右手が押し出され、放物線を描きボールは黒い枠に当たった。



ボテッ


『……』
「……力入れすぎだ」


落ちてしまったボールを拾い、少し呆れている青峰がもう一度パスをする。キャッチして、外れたことに羞恥を抱いていたまいはそれでも笑う。

『でも当たりました。私、もうちょっと頑張ります。だから、青峰くん帰っていいですよ』
「バーカ、お前だけだと日が暮れるどころか朝になるだろ。付き合ってやるよ」


そう言って笑う青峰に、まいは確信する。
まだ青峰はバスケが大好きなのだと。



大好きなもの

END


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