キミのおこした奇跡side S


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恋の受験戦争


開幕


「もうすぐ受験生だねー!」
「は?でも俺たち関係ねーだろ?」
「え?」
「え?って、内部進学だろ、俺たち」


黒猫イチの居候から、すっかりうちに居座ることが当たり前になったあおいが、夕飯の片付けをしながら言った。
最もうちにいるのは当たり前になってるところもあったんだけどな。
それでもたまにあおいの家で、ってのもあったけど、イチ登場から俺んちオンリーになった。
まぁそれもありだ。
そんな日常を過ごしていた時の受験話。
幼稚園から大学まである帝丹は、入っちまえば受験なんてあってないようなもの。
内部のささやかな試験がある程度。


「やっぱりみんな帝丹高校に行くの?」
「はあ?当たり前じゃねーか。何オメー行かねぇ気かよ?」
「え?行かない、って言うか、やっぱりどうせだから江古」
「はあ!?」
「……え、英語が出来る学校がいいな、って、」
「安心しろ、うちの学校は英語教育もここら辺じゃ1番て話だ」
「…………そうなんだ」


コイツ今「江古田」って言いかけたよな?
まさか江古田高校に行くとか言わねぇよな?
んなふざけた真似許されると思ってんのか!?
…進路調査の紙の提出期限は来週、か。
めんどくせーけど仕方ねぇ。


「ゆ、有希子さん!?どうしたんですか!?」
「新ちゃんもあおいちゃんも受験生になるでしょ?だからどんな感じかしらー?って応援に来たのよ!」


母さんに、あおいが来年江古田に引っ越す気だとメールしたら翌日には日本に飛んできた。
ほんっと、娘のように可愛がってるよな。
俺としては助かるけど。


「で?で?」
「はい?」
「あおいちゃん、もちろん帝丹に行くのよね!?」
「…え、私、」
「行くのよねっ!?」
「わ、私、」
「懐かしいわー!英理と競ったミスコン!あおいちゃんが入ったら、蘭ちゃんと一騎打ちかしらー?」
「え!?わ、私ミスコンなんてそんな!」
「あら、いいわよー?全校生徒の注目を浴びる中、帝丹高校でいっちばん素敵な女の子を選ぶのよ!出るしかないじゃないっ!!」
「い、いや、私は無」
「無理じゃないわよ!なんなら今からレッスンよっ!!」
「…ええっ!?」
「ほらほら、進路調査書には内部進学、って書いて!」
「…………」
「ほらほら、サクッとマルつけて!ね?ね?」
「…ハイ」
「はい、あおいちゃんも来年から私の後輩、帝丹高校生ね!!じゃあさっそくミスコン対策教えてあげるからこっちに来て!」


母さんは後よろしく、って俺に進路調査の紙を託し、あおいを部屋に連れて行った。
いや確かにすっげぇ悪ぃとは思うぜ?
でもわざわざランク落とした公立高に行くより、ぜってぇ今のままの帝丹の方がいいって!
と、何故か自分自身に言い聞かせてあおいの進路が確定した。


「おおっ!」
「まぁ…上出来じゃね?」


そして3年の春。
コイツの模試の成績もまぁ、人並みになってきた。
俺の2年間の努力が実を結びはじめてる。
…長かった。
ほんっとに長かった。
あの救いようも無いバカを、ただのバカにできただけ、俺すげぇって心の底から思う。
本人も思いのほか良かった結果に、鼻歌歌いながら今日は部活休みだから早く帰ってデザートもつけちゃうぅ、とスキップして去っていった。
…まぁ、結果オーライ、ってヤツだよな。
って、アイツ俺んちの鍵持ってねぇじゃねーか!
どっか抜けてんだよなぁ、ほんっと。
つーかいい加減合鍵渡すかな…。
いちいち鍵貸すのもめんどくせーし。
そんなこと考えながら、玄関に向かったあおいの後を追った。
ら、


「えっ!?江古田と練習試合するの!?」


あおいと、見たことあるような気がする学ラン男が校門前で話しこんでいた。
…見たことある気がする、じゃねぇ!
忘れもしねー、あの学ラン男、江古田のクロバッ!!
あんニャロー、人の学校に何しにきやがったっ!!


「芳賀ちゃんに会うために!…なんてなー!いや実はさー、江古田って弓道マイナーなのか、近所でやってる学校なくってな!でも練習試合はやりてぇじゃん?で、先生どーします?って話した時、前に帝丹来て設備っつーの?しっかりしてて感動したって話から、じゃー今年も帝丹にお願いするかー!ってなってさ!…って、芳賀ちゃん聞いてる?」


…なんだ今のツッコミどころが満載な会話!
芳賀「ちゃん」!?
気色悪ぃ呼び方してんじゃねーよっ!!


「おーい、芳賀ちゃん聞いてるー?」


クロバがあおいの前で手を振ってる。
でも俯いてるあおいは反応しない。
髪の間から見える耳が赤い気がするのは気のせいじゃないはずだ。
…不愉快だ。
この上なく不愉快だ。


「あおい」


ビクッと体を揺らし振り向いたあおいは、クロバを意識してます!っていう、いつか見た「女」の顔をしていた。

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bkm

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