キミのおこした奇跡side S


≫Clap ≫Top

VS服部平次 ゲレンデの対決


売店チョコと新たな住人


「工藤くん!これっ…!!」
「私のももらってくださいっ!!」


朝っぱらから何事かと思ったら、知らない女子の集団からチョコをもらった。
そういや今日バレンタインだったっけ。
でもなぁ…。
スキー合宿に来てる先でチョコ渡されても荷物になるだけでぶっちゃけ迷惑なんだけど。
…あ、コーヒーなくなった。
めんどくせぇけど、売店まで買いに行くか。
なんて思って歩いていたら、手から売店の袋提げてるあおいを見つけた。


「あおい?」
「工藤くん」
「オメーここで何やって、って、ソレ買いに来たのか?」


袋から飛び出してるソレは見るからにお菓子。
コイツ捻挫して滑れねぇし暇なんだろうなぁ、なんて思った時、


「ちょうど良かった、はい、バレンタイン!」


その袋を渡された。
袋から取り出して確認するまでもない。
その『バレンタイン』と言って渡されたのは、ジャンボサイズのアポロ。
…アポロ!?


「オメーまさかここで買ったわけじゃねーだろうな?」
「違うよ!大阪の人から買ったんだよ!」
「は?大阪?」


よくわかんねぇけど、どう見ても売店の袋に入ってんのに、売店で買ったわけではないジャンボサイズのアポロを俺に渡し、あおいは颯爽と去っていった。
…なんでだ?
バレンタインチョコがなんでジャンボサイズのアポロ?
おかしくねーか?
おかしいよな?
ウケ狙いなのか?
ぜんっぜんおもしろくねーんだけど!


「新一、去年自分が言ったこと忘れてんでしょ?」


釈然としないまま、部屋にアポロを置き今日も蘭と滑ってたら言われた。
去年?


「…何言ったっけ?」
「やっぱり。…来年からはチョコいらないって言ったの覚えてないんでしょ?」
「はあ?俺そんなこと」


−オメーまでチョコ渡す気かよ。食いきれねーって話さっきしたよな?−
−…お納め下さい−
−来年からはいらねぇからな!−


…言った。
確かに言った…。
いやでもあの時はだって


「アポロでも貰えただけありがたく思いなさいよ!」
「…」
「第一、誕生日プレゼントなんて園子からもらったハイチュウ1本じゃなく1個だったんでしょ?それに比べたらアポロ1本に昇格しただけ良かったじゃない!しかも自腹で買ったジャンボ!」


良いのか?
それで良いのか?
いやでももらえないよりは良いのか?
ダメだ、一緒にいてもわけわかんねーヤツだと思ってはいたけど、バレンタインにジャンボアポロ渡すとかほんっと思考回路がわかんねぇ…。
わかるわけもねぇアイツの思考回路に思いを巡らせ、蔵王合宿は終わった。


「工藤くん、こっちこっち!」
「だからどーしたのか、って聞いてんだろ!」
「しーーっ!…ほら!あの子!!」


蔵王から戻ってきて、あおいも松葉杖が取れ(てゆうか合宿から帰宅したその日に学校に杖返せって言われただけなんだけど)数日が過ぎた時。
あおいが良いもの見つけたからついて来いって俺を引っ張ってくからついて行った。
あおいから手繋ぐとか、珍しくて少し嬉しいとか思ったことは内緒。


「…猫?」
「そう!捨て猫!昨日見つけた!」


あおいが引っ張ってきた先にはダンボールに入れられ冬の寒さに震えていた黒い仔猫がいた。


「…あれオメーのマフラーじゃね?」
「だって寒くて死んじゃうかもしれないって思ったんだもん!」


あおいは隠し持ってた小ぶりの水筒から牛乳を出し黒猫に差し出した。


「良かった!飲んでくれた!昨日パンあげたんだけど全然食べなくて…!」


同類相憐れむ。
黒猫同士何か通ずるものがあったのか、仔猫の方もあおいを警戒することなくすでに懐いているように見えた。


「可哀想だよね!?」
「…だな」
「だよね!?はい!!」
「…は?」


はい!と、まるで荷物でも差し出すかのように抱き上げた黒猫を俺に渡してきた。


「あ、その子男の子だから『イチ』って名前にしたの!」
「…ちょっと待てコラ」
「ん?」
「なんだコレは?」
「…なんだ、って工藤くんのお家で飼おうと思って」
「ふざけんじゃねーよ!オメーが飼えばいいだろ!?」
「だってうちマンションだからダメだし」
「だからって俺におしつけんじゃねーよっ!!」
「…別に押しつけてるわけじゃ。工藤くんち豪邸だからイチ一匹増えても…」
「俺は飼わねーからな!」


そう言ってあおいに猫をつき返した。


「…そっか、わかった。…ごめんね、イチ。お前飼えないんだって」
「…」
「うちもマンションだから連れて帰れないんだ…。ごめんね…」
「…」
「寒くないように今日は手袋置いてくからね?」
「…」
「お前まだ小さいしミルクしか飲めないのかなぁ?後でキャットフード持ってきてあげるけど、食べる?」
「…」
「ここちょっと雨あたるから、もう少しこっちにお家動かそうか?」
「…」
「…ねぇ、イチ。お前」
「だーーーっ!わーったよっ!!うちで飼えばいいんだろ!?」
「えっ!!?」
「イチだっけ?ソイツうちにつれて来い」
「いいのっ!?」
「オメー名前までつけて飼う気ありありなくせによく言うぜっ!」
「ありがとう工藤くん!!大好きっ!!」
「…え?」
「良かったねー、イチ!お前今日から工藤家の子だよ?」
「え、」
「工藤イチって言うんだよ!これから毎日会いに行くからね!!ね、工藤くんいいでしょ?」
「え、あ、ああ、いー、けど?」
「じゃあいろいろ買いに行かなきゃね!」


あははー!とか笑ってるあおい。
…え?
あれ?
今の俺の幻聴?
随分さらっとすげーこと言われた気が…。
でも結局、この時のあおいに深い意味なんてものはなく、友人としての好きって意味だなんて、すぐにわかったんだけど。
それでも、そういう風に言われたことが、捨て猫を見つけて俺を頼ってきたことが、どこかこそばゆかったから、深く追求しなかった。
そしてこの日を境に、俺の家に住人が1人(厳密には一匹)増えた。

.

prev next


bkm

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -