キミのおこした奇跡side S


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探偵たちの鎮魂歌


不可解な依頼


「クソッ!また抜かれた…」


父さんたちがアメリカに戻って数日後。
オッチャンのところに着た依頼に、なぜか俺たち少年探偵団まで呼ばれた(俺は探偵団で呼ばれてなくてもついていくが)


「借りるならもっとイイ車にしてほしいぜ」


なんでも遊園地に俺たちを招待してくれるとかで、みんなで行くことになったんだが、オッチャンが借りてきた車がもう今にも止まりそうな車で…。


「コナンくん、なんだか機嫌悪いね」
「別に普通だけど?」
「『マネージャー』が一緒じゃないから拗ねてるのよ」


歩美の言葉に灰原が答える。
それに対してジロリと灰原を睨むものの、我関せずな顔をしていた。


「ごめんねー、私が誘う前にあおいこの日出かけるって言ってたから、誘うの悪いと思って声かけなかったんだ…」


助手席に座っていた蘭が軽く後ろを振り返りながら言う。


「あおいお姉さんどこに出かけたの?」
「さぁ…?それは言ってなかったけど…」
「デートですかね?」
「「えっ?」」


光彦の言葉に俺と蘭の声が重なった。


「そういう話もしてなかったけどなぁ…」
「あ!もしかしてもしかして相手は新一お兄さんかな!?」
「いやそれは」
「違う男となんじゃないの?」


俺の言葉を遮って言う灰原をもう1度睨むが、ドアに肘をつき優雅に車窓を流れる景色を見ていた。


「うっわー!すっごーい!」
「まるでお城みたいですね!!」


午前10時少し前、ミラクルランド前に到着。
今日は快晴で、遊園地からはジェットコースターからの特有の声が響いていた。


「じゃあもしかして、王様が住んでんのか?」
「バーロォ、んなわけねぇだろ?」
「コナンくんやっぱり機嫌悪いよね…」
「ですよね…」
「ま、ここはミラクルランドのまん前。長期滞在してミラクルランドで豪遊してる、王様気取りの大金持ちならいそうだけど?」


俺の機嫌より、コイツの性格どうにかしろ…。
灰原の言葉に苦笑いした時、1人の男が近づいてきた。


「あの、失礼ですが毛利探偵でいらっしゃいますか?」
「ああ、はい」
「お待ちしておりました。私依頼人の秘書をしております高田と申します。早速ですがどうぞこちらへ」


そう言って高田さんの案内の下、依頼主の待つ部屋へと通される。


「どうぞ、こちらです」
「すげーー!!」
「ミラクルランドが一望できそうですよ!」


…さっきの灰原の言葉じゃねぇが、王様気取りってのはあながち間違っちゃいねぇんだろうな。


「椅子に座ってお待ち下さい」
「ほら!黙って席につけ!」
「「「はーい…」」」
「…では、少々お待ちください」


高田さんからの指示通り、用意されていた椅子に座り依頼主を待つ。
…それにしても、この椅子この部屋に随分と不釣合いだな。


「どうしたの?コナンくん」
「この椅子、なんかあってないよね?この部屋に」
「え?うーん…、そう言えばそうね…」
「予算ケチったんじゃねぇの?」


…の、わりにこの肘掛…。


「お待たせしました。これを渡すためにお子さんたちにも来ていただいたんですよ」


そう言いながら部屋に入ってきた高田さんが1人1人に何かを配りだした。


「なんですか?これ」
「それはミラクルランドのフリーパスIDです」
「えー!?」
「わぁ!すごい!」


高田さんの言葉に探偵団は大興奮するが…。


「毛利さんが仕事をしている間、お子さんたちにはミラクルランドでたっぷりと楽しんでもらおうと思いまして」


…依頼捜査をするとは言え全く関係のない子供の分までか?
オーナーか何かと思いきや、ホテルのスイート年間契約してるって…。
灰原じゃねぇけど「王様」なんだろうな、ソイツ。


「さ、皆さん。腕につけてください。落とさないようにしっかりとね。失くしてしまうと再発行はできませんよ?」


言われたとおり左腕に嵌める。
これがフリーパスねぇ…。


「このIDは今日1日、ミラクルランドの閉園時間の夜10時まで有効です。食事も飲み物も全て無料なので、思う存分お楽しみください」
「いゃったーー!!」
「ありがとうございます!行こう、コナンくん」
「うん」


蘭に促され席を立とうとした時、肩を掴まれた。


「キミはここに残ってください」
「え?」
「どうしてぇ?」
「もしかしてこのホテルの10万人目の客に当たったとか!」
「え!?」
「まぁ…、そのようなもので…」


そう言葉を濁す高田さん。
…いいや、俺たちが到着する以前に10万人目の客への祝賀は終わったはずだ。
ホテル前に散らばっていた紙ふぶきがいい証拠。
…ならば何故?


「じゃあ、コナンくん、後でね?」
「うん」


そう言って蘭たちが部屋から出て行ったのを見送った。


「いやー、ラッキーだったなぁ、お前!10万人目となりゃぁ、きっとすっげぇサービスが」


ガチャン


どういう動きをするのかと思い目を光らせていたら、内側から鍵をかけやがった。


「邪魔をされたくないもので」
「10万人目は僕じゃないでしょう?くす玉の紙ふぶきがホテルの前に落ちていたし」
「え!?そうなんすか?」
「えぇ。10万人目は1時間ほど前に来られたお客様が」
「じゃあなんでコイツを残すんです?」
「依頼人がそのように、と」


そこまで言うと高田さんは持っていたリモコンのスイッチを押した。
その瞬間部屋のカーテンが閉まり、室内が白昼の闇と化す。


「来ていただいてありがとう。私が依頼者です」


入り口の正面に位置するスクリーンには、1人の男が映し出された。


「事情があって顔を公にできない無礼をお許しください」


暗転した室内に男の声が響き渡る。


「今日お呼びしたのは『ある事件』を解決して欲しいからです」
「なんの事件をです?」
「それを掴むのも、あなたたちの仕事なんですよ」


解決する事件を掴む…?
依頼内容を言わないつもりか?


「これからいくつかのヒントを出します。それを元に推理し、事件を解決してください」
「し、しかし、どうしてそれを私に?」
「あなたで5人目なんですよ。依頼した探偵は」
「それで前の4人は?」
「1人はまだ調査中。2人は止めてもらい、1人は事件を解決できずにここにいます」


そう言った直後画面が切り替わった。


「お!?竜!」
「知ってる人?」
「前に一緒に仕事をしたことがある探偵だ」
「調査報告書は渡したろ!?いつまでこんなところに閉じ込めておく気なんだ!早く出せ!!」
「竜探偵。あなたは事件を解決できなかった」
「なんだと!?」
「無能は探偵は生きている資格がない」
「…な、なんだこりゃ!?」


そう言って自分の腕を見る竜探偵。
俺たちのと同じIDだ。


「くそ!どうなってんだ、こりゃ!?」
「大丈夫。痛くありません。一瞬で楽になります」
「ま、まさか…!茂木や槍田が姿を消したのも…!!」
「さようなら、竜探偵」
「お、おい!待て、待て!…くそっ!」


IDを外そうともがく竜探偵。
その努力も虚しく、画面いっぱいに光が走ったと思った瞬間、画像が途切れた…。


「プラスチック爆弾が仕込まれていたんです。竜探偵がつけていたミラクルランドのIDにね」


プラスチック爆弾…。


「さっき竜が言ってた茂木や槍田って!?」
「えぇ。世間では名探偵ともてはやされていたお2人です」


…茂木さん、槍田さんまで…。


「あなたたちに与えられた時間は今夜10時まで。それまでにある事件の真相を掴んでください。もし時間までに解決できなければ、あなたたちのIDも爆発して、竜探偵の後を追うことになる」


なんだと!?


「ちょっとやそっとのことではそのIDは外れはしませんし、仮に私が解除しないうちに外してしまえば、すぐさま爆発してしまいます」
「貴様ぁ…!!」
「あっ!蘭…!」
「そうだ!蘭たちは!?アイツらがつけたIDはっ!!?」
「子供たちのIDもあなたたちのIDとほぼ同じものです」
「なんだと!?」


「ほぼ」…?


「彼らのIDには1つ機能が追加されてましてね。…これはミラクルランドの見取り図です。ミラクルランドを縁取るようにいくつかのセンサーが設置されてます。彼らのIDがミラクルランドに入るとセンサーが感知して起爆装置がオンになり、ミラクルランドを出ようと再びセンサーの間を通ると同時に、爆発する。…彼らの分までいちいち追跡するのは面倒なんでね。こうさせてもらったんですよ」


…くそっ!!
ベランダに駆け出しゲートを見下ろしながら、探偵団バッチに向かって叫ぶ。


「灰原!聞こえるか、灰原!!灰原!灰原っ!!」
「………何?」
「灰原っ!中に入るなっ!!」
「…どうしたの?」
「いいからみんなを連れて行け!中に入るなっ!!」
「そんなこと言っても、…もう入ってるけど…?」
「なにっ!?」
「なにかあったの?」
「……また連絡する」


くそっ!
蘭たちの起爆装置が作動しちまった…!
再び部屋に戻ると、


「蘭は!?」


オッチャンが焦った顔で俺を見ていた。
首を横に振り、それに答えた。


「今夜10時までに事件を解決し、真犯人を見つけ出してくれれば、好きなだけ探偵料を支払いましょう。しかし、時間内に解決できなければ、そのIDを爆発させる」
「…あの男のところへ連れていけっ!!今すぐだっ!!!」
「無理ですよ。私もどこにいるのか知らないんですから」
「なんだと!?」
「毛利さん。…あなたたちの動きは全てモニターされています。IDにGPSが組み込まれていてね。警察に駆け込んでも無駄ですよ」


…その「事件」とやらを解決するしかねぇみてぇだな。
一言で言い表せないような憤りを感じ、モニターを睨みつけた。

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