キミのおこした奇跡side S


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束の間の、


いかなる時も


「あおいくん!」
「優作さん!」


母さんが俺とあおいの服を買い(その場で着替えた)一旦家に戻ることになった。
戻ったら父さんがいた。
いたのはいいんだ、自分ちなのだから。
けどいい加減、この光景、イラッとくるのは俺だけか?
母さんの時といいこれも恒例っちゃー、恒例なんだろうが、いつまで抱きついてんだオメー。
なんて思ったら、


「いつまで抱きついてんの?」


実際に口走っていた。
ハッとしたようにあおいが父さんから離れる。
………コイツなぁんでこういつもいつも父さんに抱きつきに行くんだ?
自分の父親を重ねてるから?
それはあるかもしれない。
でもそれとは別の何かがあるような気がしてならねぇんだよな…。
そもそも父さんにあって俺にないものってなんだ?
………………………ダメだ、身長しか思い浮かばねぇ。
身長か?
身長がないのが悪ぃのか?
なんて考えていたら、あっという間にディナーの席についていた。


「そう言えば大変だったね、アフロディーテ号の沈没事件は」


その話題さっき母さんもしたんだけど…。
なんてツッコミを入れず黙々と久しぶりのフレンチを口にした。
毛利家では外食なんてほぼねぇし、オッチャンが和好みだから和食が多いし。
たまに洋食が食いたくなんだよなぁ、なんて思いながら出されるものを口に運んでいた。


「あおいくん?」
「あ!はい!あ、いえ!コナンくんが助けに来てくれたので、」
「でも最終的にはあおいくんが助けたようだが」
「あれはたまたまですよ!」
「あら!でもあおいちゃんがいなかったら今頃コナンちゃんは海の藻屑だったのよ!」
「コナンくんは泳げるから大丈夫ですよ!」
「泳げてもアレは無理だと思うよ…」


どんなに泳ぎの上手いプロのスイマーでも沈没する船の渦に飲まれて沈むだろーが…。
なんて思っていたら、母さんの目が合って、直後ニヤッと微笑まれた。
…嫌な予感しかしねぇ…。


「そういえば、」
「はい?」
「あおいちゃんは新ちゃんと連絡取ってるの?」
「え?」


…やっぱりっ!
あおいが知らねぇのいいことに、何聞いてんだこの人!


「あの子そういうとこ疎いっていうか、なんだか心配なのよねぇ」


なんて白々しく言いながら、さも「心配してる母」を演じてる。
そう、演じてる。
間違いない。
この人は絶対楽しんでやがる…!


「だ、大丈夫ですよ!」


それに真面目に答えるあおい。
なんか悪ぃなぁ、と思った直後だった。


「新ちゃんとはこまめにメールしてるんで」


あ、バカッ!


「「え?」」
「え?」
「「えぇっ!!?」」


なんて思っても時すでに遅し。
父さんと母さんの血色が異常なほど良くなった気がするのは気のせいじゃないはずだ。


「ど、どうしたんですか?」
「ううんー!そうなのー?『新ちゃん』こまめにメールしてくれるのねー?」
「あ、はい」
「そうか、『新ちゃん』がねぇ…」
「結構まめですよ?」
「へぇぇぇぇ!そうなのねー!!」


にやっにやしながら俺を見てくる父さんと母さん。
新ちゃん新ちゃんうるせぇってのっ!
だいたいオメーも2人の時だけって言ったのになにところ構わず呼んでんだよ!
…もう嫌だ。
さっさと帰りてぇ…。


「ねぇ、僕眠くなってきたら先に探偵事務所に帰っていいかな?」
「あら車で寝てくれて構わないわよ!」
「そもそもレディより先に帰るだなど、男としてどうかと思うが?」


なんとかあおいより先に帰ろうかと思った俺の思惑はあっさり却下された。


「じゃあもう帰っちゃうんですね…」
「そうなのよぉ。あっちでお仕事あるから。今度また遊びに来てね!『新ちゃん』と!!」
「…はい!」


そう言ってあおいのマンション前から車を出した。
……………………………だーーーーっ!!


「なんだよっ!!聞きてぇことあんなら黙ってねぇで聞けばいーだろっ!!?」


ミラー越しにニヤニヤしてんじゃねぇよっ!!!


「いやん!怒らないでよー!」
「怒りたくなるようなことしてんじゃねぇかっ!」
「だーってぇ、嬉しくなっちゃったんだもん!ねぇ、優ちゃん?」
「そうだな。久しぶりに我が子に会いに来てみればまさかの急展開だったからな」
「そうよね、そうよね!まさかあおいちゃんに『新ちゃん』なんて呼ばせてるなんて思いもしなかったものー!」
「別にただ名前で呼ばれるようになっただけじゃねぇか」
「またまたぁ!すーぐそうやってツンツンしようとするんだからっ!だって普通に『新一』って呼ばれるよりも親密度が高い感じじゃなぁい!?」
「別に高かねぇし!」
「の、わりに喜んでると見えるが?」
「喜んでなんかいねーじゃねぇかよっ!!」


自分の親のことは、息子の俺が1番よくわかってる。
だからこの2人に今なにを言っても無駄だって、よくわかってるつもりだ。
…けどこれっだけニヤッニヤしながら見られたら反論だってしたくなんだろ!!?


「一時はどうなるかと思ったけど、そのうちあおいちゃんから『お母さん』なんて呼ばれるのかしら!?」
「キミはずっと娘を欲しがっていたからな…」
「あおいちゃんと一緒にショッピングしてあまりの仲の良さに『姉妹ですかー?』なんて言われたらどーしようかしら!」
「言われねぇから安心しろよ…」
「あら新一なにか言った?」
「…事務所着いたから俺帰るわ…」


つきあいきれねぇ、って思ったとき、タイミングよく探偵事務所に着いた。


「じゃあまぁ、気をつけて」
「それは我々の台詞だろう」


…まぁ確かにそうだけどな。


「てゆうか父さんたち結局何しに来たんだよ?」
「あぁ…。今回はあるゲームのシナリオの打ち合わせにな」
「ゲームゥ?んなもん書くのか?」
「まぁ概ね出来上がってはいるんだがね」
「ふぅん…。で、わざわざ日本に来た、と」
「あら、それはついでよ!」
「え?」
「新ちゃんが心配で心配で会いに来たんじゃない!」
「そうだぞ。我々の心配をする前に、そんな姿になってしまったお前がまず自分の心配をしろ」
「それは、まぁ…、悪かったとは思うけど、」


なっちまったもんは仕方ねぇし。


「でも私たちがいないところであおいちゃんとすっかりラブラブになったみたいだから安心したわー!」


またその話に戻んのかよ…!


「じゃ、俺帰るから」
「新一」
「あん?」


俺が振り向いたら、父さんはさっきまでのニヤけ顔とは別に、口の端を持ち上げ笑っていた。


「探偵とはいかなる場面においても常に冷静に物事を分析、見極めなければいけない」
「…」
「身に滲みたとは思うが、もう1度頭に刻み込んでおくことだ」
「…わかった」
「たまにはお前から連絡してくるんだぞ」
「へーへー」
「あおいちゃんと仲良くね」
「わーってるよ!じゃあな!」


俺が背を向け毛利家への階段を登りきったのを見届けたかのようなタイミングで、車が走り出した音が聞こえた。


「いかなる時も冷静に、か…」


父さんの言葉を復唱するように呟き、玄関扉を開けた。

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bkm

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